文・トロピカル松村
2021年にサーフィンの本を揃えたブックカフェ、鎌倉「星月夜書房」のディレクションに携わらせてもらったことがある。サーフィンの本と言っても本当にいろいろあって、各時代のサーフィン雑誌はもちろん、日本サーフィンの第一世代が出ている1960年代の雑誌『平凡パンチ』や、星新一の娘・星マリナの1985年の著書『わたしの波乗り日記』、日本最古のサーフレーベル〈ダックス・サーフボード〉のヒストリーに迫った本『白いサーフボード』などなど、その店に置いてあるものを挙げるだけでもキリがない。
他の店でいうと、2022年頃同じ鎌倉エリアにサーフィン系の新書を扱う書店「Books&Gallery 海と本」がオープンし、この店の店主・鎌田さんとも仲良くさせていただいている。最近は雑誌『OCEANS』元編集長の江部さんが「We want BOOKS」というサーフィン系を多く扱う古書店を千葉の一宮エリアにオープンしたようだ(こちらはまだ行けていないので近いうちに訪れたい)。
上記の店を営む先輩方を差し置いてではあるが、せっかくなのでここでボクが好きなサーフィン本を紹介したい。それは1980年頃に生まれた日本のサーフィン漫画である。全部で4作品あるのだが、まずは『海の戦士』から。これは2巻完結で、カバーから分かる通り、細かな当時のサーファーのディテールがとにかく素晴らしい。主人公のカタギリ・リョウが〈ブラッドショーハワイ〉のサーフボード片手に、〈ヴィクトリー〉のウエットスーツを着て、〈セイコー〉のオレンジダイバーズをつけている。内容は人喰いサメが襲い掛かってくる海でオーストラリアの怪物マイク・ロジャース(マーク・リチャーズのオマージュ?)と戦うというもの。当時のサーファーの海でのファッションが細かく見られるだけでなく、サメと戦うサーファー、という構図が最高。余談だがこの本は格闘漫画『タフ』を後に生み出す作家の初期作でもある。
『少年ジャンプ』で人気を集めていた『テニスボーイ』という漫画も良い。テニスプレイヤーを養成するための学校、カリフォルニア学園を舞台としたテニス漫画なのだが、たまにサーフィンネタが散りばめられているのもポイント。〈マーク・リチャーズ〉のサーフボードに乗る主人公のイラストがカバーを飾っていたりして、かつてはテニスと、サーフィンこそがイケてるボーイズの趣味だったことが認識できる(この頃『POPEYE』もサーフボーイやスキーボーイという増刊を作っていた)。
同じ漫画家で『湘南ストーリー』というのもある。これもまたカバーイラストのディテールがかなりリアルで、ビートルに貼られているステッカーを見るとハワイのラジオ局〈KIKI〉に〈98ROCK〉、〈ゴッデス〉、〈ボルト〉、〈ウェイン・ラビット〉など当時のサーファーヒットレーベルがいくつも見られる。中身はローカルサーファーとのバトルといったところ。ファミリーレストランがオシャレなスポットとして描かれていて、洋風レストランがまだ目新しかった頃の時代感を読み取ることができるのも好きなところだ。
〈ブラッドショーハワイ〉のサーフボードの前で〈ドジャース〉のサテンジャンパーを着た女性がカバーを飾っている少女漫画『心は孤独なマルレーネ』もグッド。女性サーファーの恋愛模様がなかなか良くて、手作りのキルトケースにサーフボードを入れて海に通ったりする感じがたまらなく80s。
こんな感じで1980年頃に、様々な漫画家がしのぎを削りサーフィン漫画を作っていたのを知ると、サーフィンがいかに憧れの存在だったのかがよくわかる。サーフィンの文化を直接的に伝えてくれる本で情報を摂取するのはもちろん最高。そのうえで自分は、サメと戦うサーフィンとか、恋愛まじりのサーフィンとか、まあまあ非現実なサーフィンの想像を膨らませてくれる“漫画”が密かに好きなのだ(自分のサーフィンに活きているかはわからないが)。
ちなみに漫画以外だと和田誠のイラストが入った加山雄三の自伝『湘南に愛をこめて』もおすすめ。1960年初頭にグレッグ・ノールのサーフボードを抱えた氏の写真が、めちゃくちゃかっこよくて「子供の頃から船を作ったりしていた自分にとって、サーフボード作りは朝飯前だった」という文章から、いや、和製ジョージ・グリノーやん!と感服。とまあやっぱり挙げればキリがない……。このコラムを読んでくれたサーファーには、ぜひ自分だけのバイブルを見つけに、前述したようなお店に足を運んでもらいたい。
-
トロピカル松村
TROPICAL MATSUMURA
1988年生まれ。兵庫県芦屋市出身。
サーフィン雑誌編集者を経て、フリーライターに。日本のサーフィンサウンドを集めた本『MY NIPPON SURFING SOUNDS(銀河出版)』の著者。主な仕事にジーンズブランド〈CRT〉のディレクション、『昭和40年男』のWebディレクション、『POPEYE Web』の編集執筆などがある。昭和西海岸ブーム期の私設博物館「さんかくなみ」を2025年7月にクローズ。