カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。

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彫刻家・宮脇志穂がN/OHを通して、いまできること。

芸術家の頭のなかというのは、それはそれは奥深くて、その複雑怪奇な発想は常人には理解しがたい。だからこそ、より伝わるようにと、余分なものは削ぎ落とし、作品に落とし込むことがあります。彫刻家であり、ブランド〈N/OH(ノウ)〉を手がける宮脇志穂さんも、そのひとり。9月から「B GALLERY」でエキシビションを控える彼女のアトリエにお邪魔し、彫刻の魅力と、それを通して表現したいことを聞いてきました。

profile

宮脇志穂 (彫刻家/アートディレクター)

東京造形大学美術学部彫刻専攻卒業、2011年に〈NEOSHIHO〉を立ち上げる。2014年頃より、植物とうつわをテーマに植木鉢作品を本格的に展開し、2019年よりクリエイティブディレクター増元直人さんを迎え〈N/OH〉を創立。2022年9月16日(金)からは、「B GALLERY」にて、スペシャルエキシビションが開催される。
Official Site

それぞれのアイデアを持ち寄り生まれる〈N/OH〉のクリエイティブ。

このアトリエは、立地も空間も、とても気持ちいい場所ですね。

宮脇 ありがとうございます。ここで毎日、朝8時くらいから夜6時くらいまで制作をしてるんです。

宮脇さんの1日はランニングからはじまる。その後、新聞に目を通してから、制作に取り組むというルーティン。
アトリエ内の本棚。右上に映る首像は、宮脇さんが10代のときにつくった作品。

改めて、宮脇さんの肩書きを教えていただけますか?

宮脇 彫刻家です。〈N/OH〉ではつくり手であり、アートディレクターという肩書きでやらせてもらっています。

〈N/OH〉はホームページも、毎年つくられているシーズンビジュアルも、とてもコンセプチュアルですよね。メッセージも力強くて。

宮脇 〈N/OH〉は私と、普段さまざまなブランドのビジュアルを手がけているマーティン(本記事で写真を担当)、そしてクリエイティブディレクターである増元直人の3人のチームなんです。なのでビジュアルも、言葉選びも、常に3人で意見を交換しながら決めていて。

今回、「B GALLERY」で開催されるイベントのポスターもとても印象的でした。ビジュアルも、タイトルも。

「B GALLERY」でのエキシビション用のビジュアル。

宮脇 展示タイトルである“Don't think, Feel.”は直人さんのアイデアで。

ブルース・リーの名台詞ですよね。

増元 ぼく、ブルース・リーのことを全然知らなくて、もちろんこのセリフも知らなかったんです。だけど、朝起きたときに「今回のイベントタイトルは“Don't think, Feel.”だ」って降ってきたんです。いざメンバーに言ったら「いや、それブルース・リーじゃん」って(笑)。

〈N/OH〉でクリエイティブディレクターを務める直人さん。元・花火師という異色の経歴の持ち主。

宮脇 直人さんは突飛なアイデアをめちゃくちゃ出してくるんです。ちょっと宇宙人っぽいっていうか(笑)。一方でマーティンは、長年アパレルのビジュアル制作を中心に活動していて、業界の経験もあるし、デザインもできる。今回のビジュアルをデザインしたのもマーティンなんです。

増元 志穂さんはしっかりアートを学んできた人だから、たとえぼくが突飛なアイデアを出したとしても、しっかりとアートの線上で捉えてくれるんです。

宮脇 逆に私は、アートを学んできたからこそ、直人さんのような突飛なアイデアは出てこないし、マーティンのようなバランス感覚や経験値もないので。本当にそれぞれが少しずつ補って支えあいながら、〈N/OH〉のクリエイティブは生まれてるんです。

ダルマ、素焼き、野焼き。

宮脇さんは粘土を使って作品を生み出していますが、モチーフや形はどう決まっていくんでしょうか?

宮脇 彫刻家って普通、最初に絵を描いてから、それを立体におこしていく作業をするんですけど、私の場合は絵を描かなくて。粘土を触っていくなかでアイデアが浮かんで形が決まっていくんです。絵をいくら上手に描いたところで、立体にしたらおもしろくないと意味がないし、手を動かしちゃったほうが早くて。

スランプに陥ることもあったり?

宮脇 〈N/OH〉ではアート性の強い一点ものの彫刻作品(以下アート)と、もっとわかりやすいプロダクトの2軸に分けているんです。で、プロダクトのほうは言い方が悪いけど、一連の作業でつくれてしまう。だからたとえば、アートの制作に煮詰まっちゃたら、プロダクトをつくって頭をリセットさせて、また戻るみたいなことを繰り返しているんです。そうして、うまいことバランスを取れているから、つくれない状況が長く続くことはないですね。

左がダルマをモチーフにした「B GALLERY」での展示作品。右がプロダクトとしてつくられた植木鉢。(ともにN/OH)

9月からはじまる「B GALLERY」ではアートの作品が展示されます。プロダクトとの明確な違いはありますか?

宮脇 簡単に言えば、プロダクトには用途があります。植木鉢として使えるとか。言ってしまえば、一般の方々にも届くように、いろんなものを削ぎ落とした形なんです。用途があることで、どんな人でも自分の生活に落とし込みやすいじゃないですか。だけど、アートは、プロダクトでは表現できない粘土の表情や豊かさなんかも表現したいし、用途も特にはなくて。

たしかに、用途がないとアート性が強くなりますよね。展示作品のなかには、「ダルマ」がモチーフになったものもあると伺いました。

宮脇さんが、ずっと昔に個人で制作したダルマ。

宮脇 実は〈N/OH〉をはじめるもっと前に、素焼きでダルマをつくったことがあって。そこからときが経って、いま、しのぎ(稜線)が私たちのアイコンのひとつになっているんですけど、それを利用したダルマも2017年くらいにつくったんです。そのふたつを合わせてできたダルマが、先ほどお話に出たイベントのビジュアルに使用したものです。飾っておくことしかできないけど、なにか祈りの対象というか、そういうものになってくれたら嬉しいなって。

それと、ダルマであること以外に、“令和土器”とも銘打たれていますよね。

宮脇 まず土器の定義は、1000℃以下で素焼きされたもの。なので、今回の作品はそれに則りつつ、一度電気釜で焼いてから、野焼きで色を付ける、という手法を取っています。あと、土に金属を混ぜてオリジナルの粘土にしていて。天然の粘土が人工物に変化するというのもいまっぽいじゃないですか。この時代ならではの手法でつくった土器だから、私たちは令和土器と呼んでいるんです。

昔からある野焼きをベースにしつつ、時代に合った手法にアップデートされたと。

野焼きで焼成をするからこそ、味わいのある色ムラやテクスチャが生まれる。
野焼きの作業風景。

宮脇 そうなんです。以前野焼きをしたときに、とんでもない量の薪が必要だったんです。このままだと森がなくなっちゃうから、もっと少ない薪でできないかと考えたりして。

増元 それでぼくが「鞴(ふいご。送風装置)だー!」って閃いて。刀鍛冶の知人の作業を見させてもらったら、ちょっとの炭で刀をつくっていたんです。そのとき使っていたのが、鞴でした。鞴があれば、大量に薪を使わなくていいと知って、知り合いの木工作家に特注でつくってもらいました。

野焼きとなったら、温度を一定にするのも難しいですよね?

増元 なので、風を読むんです。鞴も使うんだけど、もちろん屋外でやるから風は吹く。計算できない状況のなかで、計算できないものが生まれるのがまた、野焼きの魅力としてあるんですよね。

宮脇志穂と〈N/OH〉の表現の根底にある、首像。

これからも、作品をつくる上で、野焼きであったり令和土器の手法を用いていくんでしょうか?

宮脇 いえ、それはいまだけかもしれないし、実は私たちもまだアートの定義を言語化できていないんです。なので、アートは実験的な側面もあったりして。なんですけど、彫刻の魅力や私のオリジナルを最大限に伝えられるのは、〈N/OH〉とは別に個人でつくっている首像なんです。

カール・マルクスをモチーフにした首像。頭頂部がくり抜かれ、器としての機能も持つ。

ザ・彫刻ですね。

宮脇 こうした首像って、飾る以外に本当に用途がないし、場所もとるんだけど、この首像づくりが根底にあるからこそ、〈N/OH〉のアート作品が生まれているのはたしかで。いま、メインとしてやっているのは彫刻の技術を器に転用するという作業ですけど、今後は逆に、器の考えを彫刻(=首像)に用いたいと思っているんです。

と言いますと?

宮脇 あえて首像に用途を持たせる。たとえば首像だけど器にできたり、花器としても使えるような。

いま制作に取り掛かっている、焼成前のジョン・レノンの首像。

宮脇 ちょっと難しいですけど、本当にやりたいことや、表現したいことを突き詰めると、やっぱり首像があるんです。そのよさを知ってもらう入り口として〈N/OH〉のプロダクトがあるといえばいいのかな。なので、今回のエキシビションではアートとプロダクトのグラデーションを楽しんでもらえたらと思います。

野焼きでつくったアート作品があると同時に、用途のあるプロダクト群もあると。

宮脇 まさにそんなイメージですね。

〈ビーミング by ビームス(B:MING by BEAMS)〉のポップアップショップで販売される〈N/OH〉の作品。右の植木鉢はBEAMSの光線に照らされ反応する月をイメージした“moon”を採用した別注作。

「B GALLERY」の展示以外に、〈ビーミング by ビームス〉でも〈N/OH〉のポップアップショップをされるんですよね。

宮脇 そうなんです。ポップアップショップには、誰にでも使いやすい器など、「B GALLERY」の展示作品に比べて、もっともっとカジュアルダウンさせたものが並びます。なので、〈ビーミング by ビームス〉でそういったプロダクトを見ていただいてから、アートが並ぶ「B GALLERY」の展示に来てもらえたら、より〈N/OH〉のことを深く知ってもらえるし、私たちが本当に表現したいものを理解していただけるかなと思うんです。

INFORMATION

N/OH “生きること。応えること。Ⅱ”

会期・場所:

2022年8月12日(金)~8月18日(木)

ビーミング ライフストア by ビームス 新静岡セノバ店


2022年10月14日(金)~10月20日(木)

ビーミング ライフストア by ビームス mozo ワンダーシティ店


N/OH “Don't think, Feel”

会期:2022年9月16日(金)〜2022年9月25日(金)

場所:B GALLERY


カルチャーは現象。誰かと何かが出合って、
気づいたらいつもそこにあった。
世界各地で生まれる新たな息吹を、
BEAMS的な視点で捉えて、育みたい。
きっと、そこにまた新たなカルチャーが
生まれるから。

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