ファンタジックで心地いいワン・アンド・オンリーの世界観を持った楽曲とともに、女優やモデルといった自身の生き方も熱い支持を集めるアーティスト、Chara。彼女の誕生50年を記念して、妹の綿引光子との共著となる絵本『LITTLE HEARTBEAT』をリリースします。来たる12月8日にBギャラリーにて始まる、本作の世界観を紹介するインスタレーションを前に、初めての姉妹でのコラボレーションや制作の裏話、本作の魅力について語ってもらいました。27年間、ミュージシャンとして第一線で活躍するCharaが今新しい表現方法としての絵本を出す理由には、家族への優しい思いがあったようです。


「“歌うように話したい、話すように歌いたい”という思いから、曲を作るように物語を作った」

━ 今作では、物語をCharaさんが書き、絵を実の妹、綿引光子さんが描いています。姉妹で一緒に絵本を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
Chara:彼女は学生時代に絵や木版画を勉強していたし、私は音楽の道に進んだというのもあって、以前から彼女と「そのうち一緒に何か作りたいね」と話していたんです。ただ何かやりたいと思っていたけど、お互い忙しくて話だけになっていて。それから父が亡くなり、2人で話す時間が長くあった時に、いよいよ「一緒に何かやりたい!」と思うようになりました。そんな折、BEAMSさんから、50歳を迎える私の半生を紹介する展示の企画をいただいて、これはやるべきタイミングだと考えて絵本の制作を逆に提案させていただきました。


━ そこで絵本を選ばれた理由は何でしょうか?
Chara:いくつか理由があります。まず、私が絵本好きであること。今でも気になったら買っています。次に、毎年クリスマスに妹の幼い娘たち、姪っ子に絵本をプレゼントしているんです。でもそろそろあげるものもなくなってきたので、自分で作りたいと思っていました。そして最後に、美術の先生の免許を持っている妹が、日常的に絵を描いたり、自分のクリエイションを子育ての中に自然に取り入れていることが素敵だなと感心していたから。姪っ子はきっと、自分のお母さんが集中して描いた絵を見たことがないと思うので、そんな姿を見せられるチャンスを作りたかったんです。お姉ちゃんとして、今回をきっかけに妹がまた作品を描き始めてほしいなぁ〜って思ってる(笑)。

— 物語は、一人の女の子があることをきっかけに冒険の旅に出て、幼少期の家族との記憶や自らの体験、そして豊かな想像力を通して、様々なモノたちに出会っていくファンタジーです。ストーリーや構成はCharaさんの中から自然と湧いてきたのでしょうか。
Chara:ときどき詞を書く延長で、物語を書くんです。常日頃から、“歌うように話したい、話すように歌いたい”と思っていて、曲を作る感じでひとつの物語を書きたいと考えていました。今回の絵本のお話は、思いついたことを一筆書きでさらさらと書いたものを元に、アレンジして作りました。私が曲を作る時は、最初から全体のアレンジが頭の中にあるんです。ここでこの楽器が鳴ってなど、展開が映画のような映像で浮かんでいて、それに合う音を作っていく感覚ですね。この絵本は、アニメーションになるイメージで作っていました。『つみきのいえ』(2008年・加藤久仁生監督)のようなアニメが近いかな。そういう意味では、曲作りと似ている部分があったのかもしれません。


— なるほど。読み進めていくうちに、言葉の中にCharaさんを感じます。
Chara:言葉のリズムに感じるのかな。普通に読んでいると一息でいけないところがあるなど、私の曲のメロディも変なところで息継ぎすることもあって、自然とCharaらしさが入っているのかもしれません。あと、気に入っている言葉を繰り返し使っていたり、オノマトペを入れていたり。そのなかでも言葉の雰囲気作りで迷うところがありました。文法やルールをきっちりしすぎるとリズムが変わってしまうし、また、行間はこのくらいがいいとか、この言葉は漢字がいいとか、フォントはこれがいいとか、妹が描く絵にも合わせながら試行錯誤していました。

━ こういったCharaさんが持つイメージに対して、光子さんはどのように絵を描いていったのでしょうか。
Chara:湧いたイメージを「こんな感じ」って伝えていたけど、言葉だけでいうのは難しくて、勘違いしやすいんです。絵を描くという作業は大きな労力がいるので、方向性が間違っていないかを確認することは大事にしていました。だけど、それがすべてではなくて、そんなイメージを参考に彼女が彼女らしい絵を描けばいいと思っていました。小さい時にイソップやグリムといった絵本を通して同じものを見ていたし、父親に多くの美術展に一緒に連れて行ってもらっていたので、お互い共通の“点”はついていて、大人になってその点と点が似た“線”になっている。彼女も音楽が好きだし、根底で通じ合うものがあるので。


━ そんなお二人の感性が凝縮された物語ですが、物語にどんな思いを込めたのでしょうか。
Chara:姪っ子をはじめとする子供たちが、絵本にあるようにロマンティックな恋をして、すばらしい恋愛ができますようにと個人的な気持ちを込めました。彼女たちが大人になっても持っていてもらえるようなお話にしたかったんです。私たち姉妹は幼い頃って、漢字がわからなくても写真集や美術品の図録を読んでいて、そこで言葉を覚えていたと思うんです。なので絵本の中には、姪っ子のような年齢の子が読むには難しい漢字を使っているのですが、最初は読み飛ばしてもよくて。後々この本を読んでいく中で覚える言葉が、愛にまつわるものだったら素敵だなって。


━ 恋がしたくなる心が温まる内容で、お子さんだけでなく大人の方にも読んでほしいと思いました。
Chara:そうですね。妹の旦那さんがアメリカの方というのもあってか、妹家族は言葉だけじゃ足りなかったらハグをするなど、いろいろな手段を使って気持ちを接している姿が美しいと思っていて。そんな気持ちを伝える手段の一つに、この絵本があってもいいですよね。物語に出てくる手紙になぞらえて手紙を添えたり、自分が好きな詩を書き込んだりして渡すのもいい。今は告白もSNSだし、本から離れていく時代であることはわかるけど、手紙も本もやっぱり素敵。恋愛に関する本を愛する人同士で貸し借りするなんてロマンチックでしょ。好きな人から「これいいよ」って借りるのって嬉しいでしょ。この絵本が、好き合う男女の中心にあるのもすばらしいと思うんです。そんな風に使ってもらえることが私の夢のひとつ。絵本はいろいろな使い方があるし、進化していく絵本って面白い。

━ 恋愛をつなぐ絵本、素敵ですね。さらに、今回絵本のために作った曲『まだみぬあなたへ』のCD が同梱されます。まさに進化した絵本です。
Chara:絵本の世界観を彩るものとして曲をつけました。ただ、作った人が「こういう風に聴くもの」と押し付けるのは楽しみ方を狭めてしまうので、「あ、たまたまCDがついていたから聴こう」という感じでいいんです。絵本とは別に聴くのもありです。また、主人公の女の子は私のことでもあるんです。私は50歳ですが、まだパートナーに巡り合えていないので、まだ見ぬあなたに出会ってみたいという気持ちも込めたりして(笑)。そんなロマンチストな大人の方にも向けているラブソングになっています。詞には、ずっとモチーフとして使いたかった、愛や博愛をイメージする大好きなチューリップを入れてみました。あと、絵本に出てくるクマのぬいぐるみや口紅、クリスタルがグッズになりますので、進化した絵本の一部として楽しんでほしいです。


━ 初めての絵本制作であるとともに、初めてのエキシビションになります。ライブとは違う形でファンの方と交流ができそうですね。
Chara:日を見て私も顔を出そうと思っています。偶然会えたらお話ししましょう〜。絵本に関するインスタレーションの他に、妹の絵を飾ろうとか楽器を置こうとか考えているので、お楽しみに。

━ アーティストとして27周年を迎え、つねに新しいことに挑戦しているCharaさん。これからの活動やビジョンについて教えてください。
Chara:12月19日にニューアルバム『Baby Bump』をリリースします。「Baby Bump」は赤ちゃんを身ごもったお腹の膨らみを指す言葉。私は離婚後に“音楽と結婚した”というコンセプトがあって、ついに今回身ごもったというイメージ。このアルバムではいろいろなクリエイターと共作して、それぞれの人とそれぞれの才能を引き出し合いながら融合ができました。私にとってルーツとなるソウルを入れつつダンサブルな曲が多いので、来年から始まるツアーに来ていただく方は、ぜひ筋トレをしてからお越しください(笑)。私はつねにやりたいことがたくさんあって、これからも若手のクリエイターと軽やかに、フットワーク軽く共演して、様々な曲を作っていきたい。そもそも幸せになることが歌い始めたきっかけ。みんなが笑顔になったり、泣きたい時に泣けたり、勇気が湧いたり、人の役に立つ活動をしていきたいと思っています。

『LITTLE HEARTBEAT』
著者:綿引美和 + 綿引光子
価格:5,000円(税別)

Chara

1991年9月シングル『Heaven』でデビュー。一貫して「愛」をテーマに曲を創り、歌い続けている日本で唯一無二の女性アーティストである。オリジナリティ溢れる楽曲と独特な存在感により人気を得て、1992年には日本レコード大賞ポップ・ロック部門のアルバム・ニューアーティスト賞を受賞。1996年には、女優として出演した岩井俊二監督の映画「スワロウテイル」が公開され、劇中バンドYEN TOWN BANDのボーカルとして参加し制作されたテーマソング「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」は大ヒットを記録。この頃から、ライフスタイルをも含めた“新しい女性像”としての支持も獲得し、1997年のアルバム『Junior Sweet』は100万枚を超えるセールスを記録する。2014年には、ファッション業界でも先駆的な取り組みが話題となっているクロスカンパニー社のグローバル新ブランド「KOE」のブランドアンバサダーに愛娘SUMIREと共に抜擢。Chara=「音楽そのもの」として、その才能を余す所なく創作し続けている。2015年秋、伝説のバンドYEN TOWN BANDが復活、ライブ・楽曲制作が始動。2016年9月にデビュー25周年を迎えた。2017年25周年記念アルバム『Sympathy』を発表。2017年12月初のDJイベントを企画し、DJ Charaとしてのキャリアをスタートする。2018年1月、50歳の誕生日を記念して、歴代のバンドメンバーと共に2日間のスペシャルLIVEを開催。2018年5月より全国TOUR開催(6公演)。アンコールツアーでは2年振りとなるブルーノートツアーも開催(全16公演)。2018年12月19日オリジナルアルバム『Baby bump』を発売する。2019年1月より新アルバム『Baby bump』を持って全国ツアーも開催される。デビュー27周年を迎えてもなお、音楽と共に生き、積極的に活動中。
https://charaweb.net/

エキシビション「Chara Art Forest 『LITTLE HEARTBEAT』」

開催期間:2018年12月8日(土)~ 2019年1月14日(祝・月)11:00〜20:00
※12月31日(月)11:00〜18:00 / 1月1日(火・祝)休業
開催店舗:Bギャラリー(東京都新宿区新宿3-32-6 ビームス ジャパン5F)
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