皆様、お久しぶりです。
ビームス 天王寺のシマです。
気がつけば9月に入りましたね。
暦の上では秋。
ただ、外に出ればまだ普通に暑い。
秋服を着たい気持ちと、汗をかきたくない身体が、毎朝静かに戦っております。
そして、
前回がエピソード8。
今回は、エピソード10。
……エピソード9はどこへ行ったのか。
実はエピソード9、さまざまなシステム上の問題により、お蔵入りとなってしまいました。
航海の途中で、どうやら一話だけ海へ落としてきたようです。
かなり探しましたが、見つかりませんでした。
そんな少し不思議な空白を挟みまして、久しぶりの航海日記です。
そして今回は、空白の一話を忘れさせるほど、とんでもない一着が入荷いたしました。
〈BEAMS PLUS〉のミリタリーシャツです。
まずは、写真をご覧ください。
それがこちら!

……虎です。
かなり、虎です。
ただし、今回の虎は見た目のインパクトだけで終わりません。
近づいて見ると、柄が生地の上にプリントされているのではなく、織りによって立体的に浮かび上がっています。
今回もなかなか長くなりそうです。
それでは、幻のエピソード9を飛び越えて、エピソード10。
虎の正体を探しに出航です。
そもそも、なぜミリタリーに“虎”なのか。
「タイガーストライプ」と聞いて、ベトナム戦争期の迷彩柄を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
タイガーストライプは、その名前の通り、虎の縞模様を思わせる細長く不規則な線が特徴のパターン。
ルーツには諸説ありますが、フランス軍が第一次インドシナ戦争で使用した「リザードパターン」の影響を受け、南ベトナム軍で独自に発展していったとされています。
密林の中で輪郭をぼかし、周囲の植物へ溶け込むための柄。
やがて南ベトナム軍のレンジャー部隊や特殊部隊、そして現地で活動する一部のアメリカ軍関係者にも着用されるようになりました。
ただ、面白いのは、タイガーストライプがアメリカ軍の正式な支給品として統一されていたわけではないということ。
現地調達やローカルメイドのものも多く、色の濃さや縞の太さ、柄の密度など、さまざまな個体が存在します。
この“正解が一つではない”感じ。
ヴィンテージ好きには、非常に危険です。
調べ始めると、なかなかジャングルから帰ってこられません。
戦場の迷彩を、そのまま持ってこない。
ここで改めて今回の一着を見てみると、いわゆるベトナムタイガーの忠実な復刻ではありません。
グリーンやブラックを基調とした迷彩柄ではなく、黄褐色のベースにダークカラーの縞が走る、動物としての“虎”を強く感じる配色。

ミリタリーの背景を持ちながら、どこか1950年代頃のアメリカンカルチャーに見られるアニマル柄のような、少し不良っぽくて、少し色気のある表情です。
迷彩は、本来なら周囲に溶け込むためのもの。
しかし、このシャツはまったく隠れる気がありません。
むしろ、かなり見つけてほしそうです。
この矛盾がたまりません。
ミリタリーウェアの無骨さと、ファッションとしての華やかさ。
相反する二つが、一着の中でうまく共存しています。
柄は“乗せる”のではなく、“織り上げる”。
このシャツを特別なものにしている最大の理由が、ジャカード生地です。
一般的なプリントは、完成した生地の表面に色や柄を加えて表現します。
一方、ジャカードは、織物を構成する糸の動きを細かくコントロールし、生地そのものへ柄を織り込む技法。
つまり、この虎柄は表面に後から描かれたものではありません。
生地の中に、最初から虎が潜んでいます。
光の当たり方や見る角度によって、縞が浮き上がったり、少し沈んで見えたりする。
写真だけでは伝わり切らない、立体感と陰影があります。

プリントのタイガーパターンなら、もっと土臭く、荒々しい印象になっていたはず。
そこを高密度のジャカードで表現することで、ミリタリーシャツでありながら、どこか品のある佇まいに仕上げています。
柄は派手。
けれど、生地づくりは繊細。
また、キュプラが生む、ミリタリーらしからぬ色気。
素材はコットン53%、キュプラ35%、ポリエステル12%。
コットンだけで仕上げるのではなく、キュプラを混ぜているところにも、このシャツの面白さがあります。
コットンが持つ自然な風合いとカジュアルさ。
そこへキュプラ特有のしなやかさや、光沢感が加わることで、一般的な軍用シャツとは異なる滑らかな表情が生まれています。
さらにポリエステルを組み合わせることで、生地に適度な形状安定性もプラス。
無骨なタイガーパターンに、キュプラのドレープと光沢。
軍服とドレスウェアが、同じ船に乗っているような生地です。
以前の航海日記でもキュプラについて触れましたが、まさか再会の場所がジャングルになるとは思いませんでした。
海を泳いでいたはずなのですが、、
土台は、アメリカのユーティリティシャツ。
デザインのベースとなっているのは、ヴィンテージのアーミーユーティリティシャツ。
軍で日常的な作業着として使われてきた、シンプルで合理的なウェアです。

左右対称に配置された両胸のフラップポケット。

クラシカルな5つボタン。

背中にはヨークを設けず、一枚で仕立てた後ろ身頃。
裾はカーブさせず、水平に近いスクエアカッティング。
シャツというより軽いジャケットに近い感覚で羽織ることができます。
前立てには、生地を別に当てて補強する太い縫い付け前立てを採用。
もともとは耐久性や生産性を考えて生まれた簡素なつくりですが、その潔さが現代ではデザインとして格好よく見えます。
装飾を増やして主張するのではなく、用途から生まれた構造そのものが格好いい。
ワークウェアやミリタリーウェアに惹かれる理由は、こういう部分にある気がします。
袖口は、イッテコイ仕様。
「イッテコイ」という、少し気になる名前。
初めて聞くと、何か急かされているような名前ですが、きちんとした縫製用語です。

袖口の開き部分を細い布で挟み込む、比較的簡素で軽い仕立て。
ドレスシャツのように剣ボロを付けた構造よりも、袖口がすっきりと仕上がります。
こうした簡略化されたディテールも、実用着をルーツに持つシャツらしい要素。
ただ、今回のような存在感のある生地では、この“つくり込みすぎない袖口”が良い引き算になっている気がします。
一枚で主役。
サイズ感は、全体的にややゆったりとしたリラックスフィット。
身幅に余裕があり、Tシャツやカットソーの上から軽く羽織ることもできる。

タイガー柄だけを見ると、「合わせるのが難しそう」と感じるかもしれません。
ただ、ベースカラーはベージュやカーキに近く、ブラウン系のアイテムとして考えると、意外とすんなりコーディネートに入ってくれます。
オリーブのミリタリーパンツで土臭くまとめる。
色落ちしたデニムで、アメリカンカジュアルへ振る。
ウールトラウザーズや革靴と合わせて、柄の強さを上品に合わせる。
個人的には、ほかのアイテムをできるだけシンプルにして、この虎を一匹だけ放つくらいが好みです。
隠れるための柄が、街で主役になる。
戦場で生まれた機能的なシャツ。
自然へ溶け込むために発展したタイガーストライプ。
そして、複雑な柄を織物そのものへ刻み込むジャカード。
それぞれ異なる背景を持つ要素を組み合わせ、現代のファッションとして再構築する。
ただ昔の服を再現するのではなく、その背景を理解したうえで、素材や見え方を変えて新しい価値を生み出す。
そこに〈BEAMS PLUS〉らしさを感じます。
一目見ただけなら、派手な虎柄のシャツ。
しかし、近づいて生地を見て、ディテールに触れ、その背景をたどっていくと、まったく違った表情が見えてきます。
虎は目立っていますが、本当に面白い部分は織りの中に潜んでいました。
ぜひ店頭で、この立体感を実際にご覧ください。
くれぐれも、目が合った際はご注意を。
今回も長くなりました。
久しぶりの航海ですからお許しを。。
それでは、次回の航海日記で。
※ブログ内に記載の価格は、記事公開時のものであり、変更する可能性がございます。