Holger Czukay(ホルガー シューカイ)はジャーマンエクスペリメンタルの源流であるCANの元メンバー。演奏に加えエンジニアリングも担当し、独自のコラージュ的センスを発揮していました。そして今作はソロアルバムとして3作目にあたります。
ここから昔話を少々...
実は初めて買ったHolger作品がこちらでした。彼については最初はDavid Sylvian作品を通して知っていた位。その作品での担当楽器が“Dictaphone&Radio”...一体何者???という認識でした。そしてある日、たまたま授業をサボって入ったレコード店のセールコーナーにて今作に邂逅。この偶然の出会いによってその後の私の音楽人生??が大きく変わりました...という極私的思い出話はこの辺りで。

私物2種:紙ジャケP-Vine盤と独EMI盤
さて、アナログA面をフルに占める“Ode To Perfume”が先ずはとにかく美しい。盟友Jaki Liebezeitのミニマムなドラムス、そしてヴィブラートの効いたギターがほぼ全編響き続けるトラックの上に〜ラジオ、フレンチホルン、ディストーションで割れ過ぎなギター、咽び泣く様なヴォコーダーetcが絶妙に重なり合って美しくもスリリングな展開を繰り広げ、そしてあっという間に終わります。20分超とは思えない感覚。
これはHolgerのエンジニアとしてのセンスが大きいと思われます。録音した音源を徹底して素材として吟味し効果的に再配置、加工する〜まさにDubを連想させます。実はHolgerはLee Perryを“ジャマイカにいる兄弟”と呼んでいてリスペクトしていました。手法に違いはあれど近いベクトルを描いていると思います。(どちらも私のヒーローです。2人の共演が無かった事は本当に残念。)
話を戻して、B面に。こちらは様々なシチュエーションでレコーディングされた実験曲のコンピレーション的な楽しさ。
先ずはドイツ、ゾーリンゲンにて活動していたバンドS.Y.P.H.とのセッション曲“On The Way To The Peak Of Normal”からスタート。ラジオから流れる音と即興セッションを行ったもので、実は彼らのアルバムにも別ヴァージョンが全く異なる曲名で収録されています。同一リズムトラックが別々の曲に生まれ変わる...正にジャマイカばりのヴァージョン流儀です。
以下、全曲についていくらでも語りたいところですが、時間超過になりますので...B面ラスト“Hiss ‘N’ Listen”に。当時、Public Image Ltd.を脱退して間もないJah Wobble、Jakiとのトリオです。WobbleはReggae〜Dub狂で、その影響下で編み出された太く丸みのあるベース奏法で頭角を表していたところ。そんな彼らしいクセだらけの強力なベースがひたすらカッコ良い。きっと存在するであろう別ミックスとかも聴いてみたかった...(ちなみにこのトリオによる強力アルバムも存在します。また別の機会に)

この味のあるイラストは?
今作に参加している盟友Conny Plankの子息Stephan作。
学生時代に出会い聴き続けている作品が2024年に再びリリースされる...本当に素晴らしくエキサイティングな出来事。祭りです。
Holgerの作品は機材の発達とは全く別の次元でクリエイトされていて、旧いとか新しいとかは関係がありません。ちなみにサンプラーが生まれる遥か前から、手作業でサンプラーよりも面白い事を成し遂げていました。とにかく聴く度に新たな発見がある名作。次に押さえるべき一手として、是非おすすめします。
丹羽 望
ビームス プラス 丸の内