偏愛服録番外編Episode.1

天池 隆佑 2020.04.11

こんにちは、アマイケです。



こんなにも広い世界にいるというのに、



家から出られずただ物思いにふける日々に憂鬱を感じる今日この頃。



ふと、思い出したのは、一昨年の夏の暮れのこと、



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9月、まだ残暑続く東京を発った私は、地球の裏側、ブエノスアイレスに居るある人物に会いに遠路足を運んだ。



空港に着くや否や私を迎えたのは、東京よりも暑いはずなのに、どこか清々しさを感じさせるよく晴れた広い空に、



革の靴底をじわじわと熱す整備の行き届いていないアスファルトの路面だった。



「あゝここも同じ地球なのか」と、いつもと似ているようで違う景色に圧倒されるのも束の間、



私を出迎えてくれたのはそのある人物、エルネストだ。



軽く巻かれたロングヘアと笑顔が魅力的な彼女はブエノスアイレスで1人工房を営む。



使い古されたデニムに、これまた古びたオーセンティック、飾らない風貌に、変わらぬ彼女に安心感を覚えた。



お世辞にも綺麗とは言えないトラックの助手席に私を乗せ、彼女は工房へと誘った。




彼女との出会いは遡ること4年前、意外にも地元、盆栽町でのことだった。



学生だった私は盆栽園のアルバイトで、彼女は単なる観光客の1人。



師匠に任されていた剪定に、脇目も振らず黙々と取り組んでいた私には、彼女が目の前を通り過ぎたことなど知る由も無い。



はずだった。



普段から盆栽に触れている手前、手がどうしたって葉っぱくさい。



さらには防虫剤などの薬品の匂いが入り混じる。



そんなキツイ匂いに慣れた私の鼻を、ほのかに柔らかく、それでいて脳天を突き抜けるような、優しい香りが包み込んだ。



その時ふと顔を上げた私の目の前に彼女はいた。



彼女は物珍しそうに、口を開いた。



「そのシャツは私服ですか?それとも、制服か何かですか?」



無論それは私服だったのだが、当時洋服に一切興味のなかった私は、何ら誰かに興味を惹かれるような服を着ているつもりは一切なかった。



そのシャツは襟のない被りのシャツで、適度にゆるいシルエットが見栄えと着心地を兼ね備え、剪定をする仕事の上では非常に都合が良かった。



私服と返答すると彼女はそのシャツの程度をなぜだかすごく褒め、ぜひサンプリングさせて欲しい。唐突に言ってきた。



聞くと彼女は、アルゼンチンはブエノスアイレスで洋服の工房を一人営んでるという。



別に断る理由のない私は訳も分からず、承諾した。彼女はブエノスアイレスに招待するとだけ言い残し去っていった。



風のようにやってきたそれは、風のように去っていった。

過ぎ去った風を覚えていないのと同じように、彼女の記憶はその後すぐ私の頭の奥の方に消えてしまった。



1年が過ぎ、見覚えのないトリコロールの封筒が届いた。



「久方ぶりです。形になりました、是非見に来てください。いいところですよ。エルネスト。」



忘れていた記憶がフラッシュバックするのと同時に、1年の間に洋服屋になっていた自分にはその腰をあげるのに時間はかからなかった。



そうして時は冒頭へと戻る。



つづく。



※この物語は事実に基づいたフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。そして続きません。


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ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。笑


一度やってみたかったのですが、限界を感じました。



物語中、一人称の彼が着ていたシャツ。

イメージはこちらです。



BEAMS PLUS / バンドカラー プルオーバーシャツ
カラー:WHITE、GREY、BLUE
サイズ:XS、S、M、L、XL
価格:¥13,000+税
商品番号:11-11-5972-139


〈BEAMS PLUS〉より定番で展開している、ヨーロッパのワークスタイルに見られるプルオーバー型のシャツをベースに、


ゆったりとしたシルエットでバンドカラーで作成されております。


インドの最高級綿花であるスビン綿を使用し、高密度に織り上げています。適度な光沢感とハリのある生地が独特でかっこいいです。



被りのシャツ、着やすいのか着にくいのかよくわからないですが、



少し存在感のあるそれが、愛着を持って着れる理由に、なるかもわかりません。



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アマイケ