みずみずしい感性で注目を集める24歳の映画監督、枝優花さん。6月30日(土)劇場公開された『少女邂逅』は、女子高生の美しくも危うい多面性を描いた、斬新な表現が話題を呼び、若手監督の登竜門である映画祭『MOOSIC LAB 2017』で観客賞を受賞しました。待望の劇場公開に合わせてビームス ジャパン4F「トーキョー カルチャート by ビームス」では写真展『あの子とわたし、記憶の糸口』を開催。そして監督にインタビューをしました。

「不安定で複雑な“少女”の儚さを表現したかった」

 ━ まずは『少女邂逅』の着想を教えてください。
EDA:14歳の頃、人間関係が上手くいかず、人に対して過敏になったところがあります。友人との距離が近くなるほど扱いがぞんざいになったり、人に気を遣い過ぎるあまり、言いたいことまで言えなくなってしまったり。 距離感が掴めないとボタンの掛け違いが続いて、関係が壊れてしまいますよね。そんな、感情のコントロールがきかない少女の脆さや儚さを客観視していた実体験をベースに書いた脚本です。


━ 18歳で脚本を書かれてから映画を撮り始めたのが22歳。4年もの時間がかかっています。
EDA:自分で書いたにも関わらず、18歳の学生の手に負える作品ではないとすぐ気付きました。無理に撮って中途半端なものにはしたくなかったので、一度寝かせたんです。そして映画製作を勉強し、何ができて、できないことが見えてきたいま、この脚本をもう一回引っ張りだしました。骨組みを変えずに、主演の保紫萌香さんやモトーラ世理奈さんに合わせて当て書きをするなどして、クランクイン直前まで細部を作り直して練り上げたものです。

主演には、『ミスiD2016』の保紫萌香さん、ファッション誌『装苑』の専属モデルであり<ビームス ボーイ>のムックや『Amazon ファッション ウィーク 2017』のメインビジュアルを務めるモトーラ世理奈さんを起用しました。音楽は1stアルバム『転校生』のリリースで強く儚い世界観が話題になった水本夏絵さんが特別提供されています。

━ W主演のキャスティングはどのように決められましたか。
EDA:お二人に惹きつけられた理由は“見えている部分と本質の違い”です。外面と中身に大きなギャップを感じました。モトーラ世理奈さんはモデルとしてこれだけ活躍されていながら、とても素朴でピュアで、誰にでも同じ態度で接する方です。また保紫萌香さんはというと、内面がとても複雑で読み切れない印象を受けました。保紫さんが演じるミユリ役は劇中でキャラクターが大きく変化しますが、彼女の芝居の幅を足がかりにあて書きをした台詞も多いんです。私にとって、初めて全てを賭けた映画ですが、初主演・初長編である二人が一緒に背負って作り上げてくれました。

━ 「音楽=水本夏絵さん」水本さんに音楽をお願いされたのはなぜでしょう。
EDA:もともと、水本さんの繊細な音楽のファンです。彼女の歌詞は「会いたい」「寂しい」というような直接的な言葉を使わずに、ただ情景を描写しているんですね。18歳の時、そんな映像的とも言える音楽を聴きながら、イメージを膨らませてこの『少女邂逅』を書いたので、水本さんに音楽をお願いしたのは自然なこと。そこで完成してみると、音楽と映像が符節を合わせたようにリンクしているシーンもあって、自分でも嬉しい驚きでした。


━ 脚本を書き上げる中で悩まれたことはありましたか?
EDA:いいものを作りたい気持ちが強すぎて、正解がわからなくなることも多かったです。本当は台詞をコロコロ変えることは、演技を技術として準備してきてくださる役者さんに対してとても失礼なこと。段取りとしてはNGだと分かりながらも、未熟さゆえに先まで判断できず、直前まで台詞を待っていただくことが多々ありました。その中で、同世代のスタッフや演者はギリギリの差し替えにも協力してくださり、大人の方々には夜通し相談に乗って頂いたこともあります。そんなことの繰り返しでなんとか仕上げることができたんです。

— 劇中の、“蚕”にまつわる危ういファンタジーについて教えて下さい。
EDA:ミシェル・ゴンドリー監督のように、普遍的なところにファンタジーを差し込むことで、現実世界がしっかり見えてくるような対比の表現をしたかったんです。そこで、“思春期の心の難しさ”というリアルに対して、姿を変える“蚕・繭”の儚さや残酷な一面をファンタジーとして随所に差し込みました。


本映画では、緊迫感のある構図や、グラフィカルな正対画角、湿度を感じる色彩、淡いライティング、情緒的映像、と映像の多様さも特徴です。

━ 様々な手法で撮影を務めた“撮影監督”も、同世代の女性だそうですね。
EDA:撮影監督は一つ年下の女の子。同世代でコミュニケーションが取りやすいかと思いきや、好みの表現方法が真逆だと発覚した時は気を揉みました。私は情緒的な映像が撮りたかった一方で、彼女はウェス・アンダーソンのような左右対称でグラフィカルな表現が好み。それからは多くの参照映像を見ながら相談をしていきましたが、結果としては、彼女はどんな難しいリクエストにも応えてくれるとても優秀な人でした。この撮影監督を筆頭に、若手の撮影部・照明部・録音部のかたがたには無茶をしてでも成し遂げる勢いがあり、様々なアプローチで撮影することができたんです。彼女と私の正反対のこだわりが、想定外の演出を生んだことも、今となっては良かったように思います。


━ 具体的に、どのように撮影方法を相談されたのでしょうか?
EDA:彼女には、自分の好きな作品を全部リストアップして渡しました。岩井俊二さん、エドワード・ヤンさん、ロウ・イエさんと、グザヴィエ・ドランさん、篠田昇さんが撮影を担当されている作品など、撮影監督はとてもよく研究してくれました。クランクインの前には一週間ほど、“割合宿”と称してファミレスに篭りきって全てのカット割をふりました。例えば、俯瞰から撮っていくとか、ハイスピードで撮るとか、相当、コミュニケーションをとりました。


━ 特に手応えを感じたカットはありますか?
EDA:二人が学校を抜け出して、自転車で走り抜けていくシーンです。狭い世界から抜け出していく疾走感を表現できる方法を考えて撮りました。自分の母校を使っていますが、自転車に乗るような場所ではないんです。ですが、間延びしたシーンにしないためにはその撮り方にこだわりたかった。結果として、カメラと被写体が一体化するようなカットになったと思います。

━ 枝監督が若くして映画監督になられるまでの道のりを教えてください。
EDA:小学生の頃から映画が好きで、何か関われるお仕事がしたいと思い続けてきました。映画業界の中心に触れるためには東京に行くしかないと思い、親に上京の説得をしたんです。そして、大学の映画サークルに入ってすぐの5月、初めての短編映画を撮りました。それからは神保町の古書店で脚本を買い漁り、専門誌月間「シナリオ」を読み漁り、映画を見ては書き起こし、脚本の書き方を勉強しました。大学生の間は参加できる撮影現場の情報を尋ねては、どこにでも先輩たちのアシスタントとして飛び込んでいました。


━ 映画では少女たちが変化していく様が印象的でしたが、枝監督ご自身には撮影の前後で変化がありましたか?
EDA:“流されることの良さ”を覚えました。私はごく普通のレールに乗って生きてきたタイプ。いつも何かに保険をかけてきたし、この業界でやっていけるのか不安は尽きなくて、大人の方々にはそればかり相談していました。そんな中「まだ若いんだから、いくらでもやり直せる。保証なんて捨ててしまえ」とお世話になっている監督が背中を押してくださいました。何て無責任!とも思いながら、言われた通りに就活もせず、全ての保証を捨ててこの映画に向き合いました。流されるルートさえ見えず、風も吹かず、波も立たないと途方に暮れていましたが、崖っぷちで挑んだ今だからこそ、その意味が少しわかった気がします。


━ 映画を撮るために、特に苦労したことは何ですか?
EDA:一番はお金です。クラウドファウンディングでお金が集まる前の撮影に投じた自分の全財産の貯金は、映画を撮るにはあまりに少額すぎました。大作を経験していらっしゃっる先輩方にとっては、一億円規模の映画の常識がありますし、多くの映画関係者に「お金がないからできません」という返事しかできず、いつも怒られるばかりでした。大人の正論を前にぐうの音も出ませんでしたが、たまに「この予算では無理です!」と言い返したりもして(笑)。ただ、スタッフも演者も、最後はみんな家族のように協力してくれて、楽しく過ごせました。

━ 若手“女性監督”としての自負はありますか?
EDA:“女性監督”とは言いますが、“男性監督”とは言いませんよね。ただ一人の人間として撮りたいものを撮れるように頑張りたい。それに、同世代の女性監督って、今たくさんいるんです。映画に向き合っていないと壊れてしまうような人種の女子たちは、みんな代償に捨てているものが似たり寄ったりなので、その共感覚を話せるのは嬉しい。みなさん小柄で可愛らしい方ばかりなのに出てくる言葉が強いのも面白いんです。


━ 今後、撮りたい映画を教えてください。
EDA:ポン・ジュノ監督のように、エンターテイメントの中に社会批判や風刺があり、それを国際的に伝わる形に落とし込んで届けている映画を撮りたいです。今回の私の映画は“少女”を描いていますが、自分が大人になるのと一緒に作品も登っていきたい。その中で大事にしている核の部分はぶらさずに、撮り続けていきたい。


6月30日(土)よりビームス ジャパン4F「トーキョー カルチャート by ビームス」にて『少女邂逅』公開記念 写真展『あの子とわたし、記憶の糸口』を開催中。店頭でしか手に入らない限定グッズも販売してます。

━ 最後に、枝監督のご友人でもあるビームス 久保さんにもお話しをお伺いします。 ビームス ジャパン4F「トーキョー カルチャート by ビームス」での写真展開催のきっかけを教えてください

KUBO:単純にこの映画がとても素敵なので、伝えたい思いがありました。お友達ではあったものの、映画を見るまでは枝さんの本質は見えないと感じていたんです。映画祭『MOOSIC LAB 2017』で『少女邂逅』を観て、涙がとまりませんでした。自分が少女だった頃のことを救ってもらったし、思春期に痛みがあった人なら誰しも共感があるはず。枝さんや演者の方々にはカメラ好きも多く、メイキングの写真も良いので写真展を提案しました。さらに、ビームスとしては、ファッションとしての提案もできるので。作品のグッズを身に付けることで好きなものを意思表明したり、カルチャーを着る楽しみを伝えられたら。


EDA:ちょうど映画のポスターを作っているタイミングでした。そこで久保さんから写真展のお話をいただき、せっかくならグッズも作りたいとお話しが進みまして。どんなアイテムにクリームソーダのモチーフをのせるか、デザインも含め二人で相談しながら決めました。映画はもちろんですが、是非、限定グッズも手にとっていただきたいですし、写真展も併せて楽しんでもらえたら嬉しいです。

Profile / 枝優花(えだゆうか)

1994年生まれ、群馬県出身。大学在学中『さよならスピカ』(2013)が第26回早稲田映画まつり観客賞、審査員特別賞を受賞。翌年の同映画祭でも『美味しく、腐る。』(2014)が観客賞に選ばれる。その後、映画『オーバー・フェンス』や『サラバ静寂』のメイキングを手がけ、現在は、STU48デビューシングル『暗闇』ミュージックビデオの監督、写真家としてファッション誌での撮影や雑誌でのコラム執筆など、映画業界以外からのオファーも増えてきている期待の若手新人監督。

作品情報

『少女邂逅』
新宿武蔵野館、イオンシネマ板橋ほか全国順次公開
映画『少女邂逅』公式サイト

『少女邂逅』のアナザーストーリー
『放課後ソーダ日和』YouTubeで無料配信中
(本編9話+番外編3話)
公式twitterアカウント:@sodabiyori

監督・脚本:枝優花

映画『少女邂逅』公開記念写真展
『あの子とわたし、記憶の糸口』開催


映画撮影時のメイキングやオフショット写真の展示に加えて、店頭でしか手に入らない特別ビジュアルペアチケットや劇場パンフレット、Tシャツやバッグなど限定グッズを販売中。
開催日程 : 2018年6月28日(木)〜7月16日(月)
開催店舗 : ビームス ジャパン 4F

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