アフロビートと新世代UKジャズを繋ぐもの

柳 寛 2020.04.23

こんにちは。


Fela Anikulapo Kuti(通称フェラ・クティ)の片腕として、アフロビートの黎明期を支えた名ドラマー、Tony Allenと、同じく同ジャンルを世に広めるも、惜しくもこの世を去った奇才トランペッター、Hugh Masekelaが2010年に行なったセッションを収録したアルバムが、弊社オンラインショップでも入荷しています。

いわゆる熱いアフロビートというよりも、最後まで両者がクールで洒脱な雰囲気を貫いているところが本作の魅力なのですが、Ezra CollectiveのJoe Armon-JonesやKokorokoのMutale Chashiをゲストに迎えて完成させたという点も意義深いと思います。彼ら新世代UKジャズミュージシャン達は、アシッド・ジャズの流れを汲みながら、ヒップホップやR&Bといったブラックミュージックだけでなく、エレクトロニカやドラムンベース、グライムといったUKならではのカルチャーを積極的に取り入れ、さらにオーセンティックなアフロビートやレゲエ/ダブを展開するところがUS勢とは違った魅力として現れていると思います。




これには、80年代にUKで活躍したバンドThe Jazz WarriorsのメンバーGary Crosbyによって1991年に設立されたアーティスト開発プログラム、Tommorow’s Warriorsの存在が大きく関係しています。このプログラムは、ジャズの音楽教育を通じて芸術活動全体に多様性を促進させることを理念に掲げて、無料で若手ミュージシャンの育成を行っており、Ezra CollectiveやShabaka Hutchings、Moses Boyd、Nubya Garciaなど今UKジャズシーンを牽引している人達を多数輩出しています。

ジャズ演奏における技術の指導はもちろんですが、この教育プログラムがUKのアフリカ系ミュージシャンを育成するところからスタートしていることもあり、アフリカのカルチャーを伝えることにも注力しているそうで、まさに彼らがアフロビートやレゲエ/ダブに傾倒していることにも合点がいきます。


つい最近弊社オンラインショップに入荷しました、アフリカ文化を掘り起こし、そして独自に混ぜ合わせたような内容を披露したShabaka Hutchings率いる、Shabaka & The Ancestorsの新作もまさにそのことを意識させます。

また、グライムやアフロビートだけでなく、サンバのようなリズムがあったり、Radioheadのような音楽性とダークな雰囲気も併せ持ったりと新たな領域へと踏み込んだ傑作をリリースしたMoses Boydについて、今回のお話に合わせて是非見ていただきたいものがあります。


https://youtu.be/zNru-AhcBwo


こちらはBoiler RoomとGuardian Gatewaysの企画で2016年のものですが、Tony Allenが彼にドラムを指導しています。このように巨匠が若手の精鋭に伝授している姿は、先述のTony AllenとHugh Masekelaのアルバムや教育プログラムの話とも重なり私としては感慨深い気持ちになりました。歴史もしくは文化(カルチャー)の継承について、どうして人はこれをしようとするのか、どうしてこれを大切にするべきなのか。新しさとは何か。そもそも文化とは何か、さらには人とは何かなど、哲学的なことをついつい深く掘り下げて考えてしまいます。


単純にかっこいい音楽か、聴いていて気持ち良いかという観点はもちろんですが、こういった背景の部分も考えながら改めて聴いてみても、音楽の面白さが増しますね。