僕は負け犬

SHUN 新井 2022.04.30

ご機嫌いかがでしょうか、立川店の新井です。



ふと思い立ち過去の自分の企画アイテムを最近はまた着てます。今のムードに合わせてスタイリングしてみると意外と新鮮に感じますね。


パッチワークマドラスのビッグシルエットレギュラーシャツにパイピングリラックスシルエットシャツジャケット。金のエンブレム刺繍まで胸に付いてます。癖があるのに更に重ねてアンサンブルで着るというくどい合わせ。その当時全く日の目は出ずにひっそりと売られてましたが自分的には相当に冴えてた企画の筈。

今日も着てたらお洒落な方たちには何人にも質問されたので間違いないと確信してます。

普遍的なアメリカントラッドとかアイビーテイストとかビッグシルエットトレンドとかモードテイストとかもう色んなモノをミクスチャーしちゃってる。有りそうで無いという隙間を埋める様なパズルのピース的発想から出来上がる企画アイテム。何より自分が何年も何年も擦り切れてダメになるまで着たいと思えるモノを具現化する事の意味。

これだから洋服屋はやめられません。お客様にその洋服を伝え届ける売り場からも絶対に離れられません。デスクワークに耐え切れずお店に戻っちゃう程ですから、もう生涯洋服屋の病気みたいなもんだと腹括ってます。


自分としてはこのリラックスした80年代の空気感にも通じるオーバーサイズジャケットにフレアパンツシルエットとブーツの70年代のバランスが新鮮です。フレアなので正攻法としてはジャケットは構築的なショルダーラインの縦に着丈の長いサンローランテイストなんでしょうが、そこは天邪鬼なので許して下さい。しかもアメトラテイスト満点のパッチワークマドラス生地とかパイピング始末とかエンブレム刺繍とか。とにかく皆さんも感じてるとは思いますがマドラスチェックとかタータンチェックとかもよりアメリカ的なムードにやたらと再注目しちゃう気分ですよね。フレンチトラッド再燃もあるのでリンクするのも当然と言えば当然なんですが。



こんなミクスチャースタイルで頭の中で踊ってるのは間違いなく彼。


rockarchive/BECK
サイズ:A3
価格:¥86,900(税込)
商品番号:23-83-0103-950

2枚目の傑作アルバム収録のデビルズヘアカットのPVで彼がデカラジカセを抱えて歩いてる時の衣装がやたら印象に残ってます。テンガロンハットにウェスタンテイスト満点のレザージップブルゾン、フレアパンツにブーツのスタイリング。

あの当時の活性化したアメリカインディーズシーンから湧き出て来てたロウファイバンドと言えば大体カレッジTとかプリントTにデニムとかを全身ルーズに着てたので、ベックの服装はそれだけでも一線を画してファッショナブルで鮮烈でしたね。パーティーシーンでは全身エディスリマン期のディオールで固めてキメキメで登場しちゃってましたし。

そしてその2枚目のアルバムで掻き鳴らされる音楽は96年当時の高校生には衝撃を通り越して実は複雑怪奇過ぎて消化し切れてなかったと思います。

とにかく音楽の情報量が規格外。大筋はフォークやブルース的ながらカントリー、ロックンロール、リズムアンドブルース、ラップ、ファンク、ムード、ポルカ、ボサノヴァ、ジャズ、ダメ押しでクラシック要素まで。詰め込まれている情報量は驚愕に値するんですが、それをいかにもヒップホップ世代ならではの感覚でサンプリングで手当たり次第に貼り合わせて構築するジャンクアートミュージック。

もはや音楽においても洋服においても全くのゼロから生み出される新しいモノなんてそうそう出てこないと思うんです。この19〜20世紀で10年単位で次々と新たな潮流が生み出されてきましたが、この20年はその何年代風リバイバル的な表現がもはや主流になりつつある訳で。この100年で生み出された傑作達をどう焼き直すかってスタンスになると思うんです。そう言った意味で正にベックは時代的な感覚を雑多にかつ豊かな視点で編集する事で、新しくそしてその時代の空気感をドンピシャで音楽として表現出来たミュージシャンのひとつの到達点だと感じるんです。

洋服の企画して考え出す事も正に同様の感覚を覚えます。様々な歴史的背景や成り立ちを踏まえて、更には商業的な市場動向を考察した上で無限にある過去の洋服のピース達を編集してひとつの服の形を導き出していく。

最終的にはその形になった服を自分が心底楽しんで着る事、そして同じ様にお客様が楽しんでくれる事。やはり生涯この沼からは抜け出せそうにありませんね。



表題はベックを時代の寵児として一気にスターダムに駆け上がる出世作となった93年発表のLOSER。

俺は負け犬さ、負け犬だよ、どうして消さないんだよ

そうリフレインする23歳の長髪白人青年が気怠く歌う虚無感や苛立ちをはらんだ新しい形のトーキングブルース。

青臭くも仲間達やお客様の為に上に上がり変えなくちゃって必死にもがくも、大海原で迷ってしまい僕は負け犬さと自嘲するバックミュージックとしてはやたらとハマる一曲かも知れません。

でもそんな事より、売場最前線でお客様の為に洋服をご案内する楽しさに魅了され続けてるのが最高なんですよね。





それでは立川でお会いしましょう


新井