
〈インターナショナルギャラリー ビームス〉のディレクター、片桐恵利佳が、今気になっているファッションデザイナーと対話する対談連載。第三回は、2023秋冬シーズンから新たに取り扱いが始まるニットブランド〈Edna(エドナ)〉のリンジー・スミス。ひとつずつ丁寧に手染めした色とりどりのモヘア糸を、まるで絵の具を使って絵画を描くように、自由な発想で編む彼女のスタイルは唯一無二。創作の発想や今回のコラボレーションへの気持ちなどを聞きました。彼女にとって、初めてのインタビューです。
まず初めにBEAMSと〈Edna〉の出会いはいつ、どんなことがきっかけで?
片桐:〈Edna〉がブランドを始めた頃から気になってInstagram をチェックしていました。創作的で、そして親近感のあるニット。 遠い異国にあるブランドなのに、どこか身近に感じたんですよね。その数年後〈インターナショナルギャラリー ビームス〉で取り扱っているブランド〈Renaissance Renaissance(ルネサンス ルネサンス)〉と〈Edna〉がコラボレーションしたことを知って、より興味が湧きました。そんなときです、リンジーからInstagram経由でメッセージをもらって。
リンジー:私はずっとBEAMSが好きで、片桐さんがセレクトしているブランドのデザイナーたちの大ファンだったんです。〈インターナショナルギャラリー ビームス〉はとても素敵なお店だし、私もその一員になりたいと思っていたけれど、実際に叶うなんて予想もしなかった!〈Edna〉は新しいブランドだから、どんな可能性があるのかも分からなかった。でも、とても温かくて魅力的で、片桐さんをはじめとするスタッフのみなさんにお会いできて心から嬉しかったんです。
片桐:初めて会った場所はリンジーのアトリエでしたね。
リンジー:そう!また引っ越して2週間程度で家具も何もなくて。お隣さんに椅子を借りたのもよい思い出(笑)。フィッティングモデルとして友人が協力してくれて、みんなでファッションについて語り合いましたね。あれは素晴らしいひとときでした。

〈Edna〉は自由な発想による独創的なデザインが印象的です。インスピレーションは一体どこから来るのでしょうか?
リンジー:友人たちから着想を得ることが多いですね。彼女らが着ているものや、それぞれの個性から影響を受けるんです。ハンガーにかけられている服単体を見るよりも、実際に友人が服を着ている姿を見た方が創作意欲が湧きます。私の服作りはパーソナルなんです。
最初の始まりは、学校の卒業制作。今までニットをちゃんと作ったことがなかったので一から編み方を覚えて、最初はバラクラバを作りました。それからセーターも。意を決して大々的にブランドを始めたというよりも、小さなプロジェクトが少しずつ成長していった感じ。最初のルック写真は父親がモデルだったんですよ。懐かしい。今はパリに移って環境は変わりましたが、周りには素晴らしい友人がたくさんいて、私のインスピレーション源となっています。
片桐:ブランド名の「Edna(エドナ)」にはどんな由来が?
リンジー:私のおばあちゃんの名前からつけています。大きなモヘアのカーディガンを彼女のクローゼットから見つけて、気に入ってずっと着ていて。この一着にオマージュしたニットを作りたくて、初めて服作りに挑戦しました。それがこの赤いカーディガン。12枚作ったと思うけど、これはマシンメイド。その後、自分で編み方を学ぼうと思って卒業制作に臨みました。
〈Edna〉のニットといえば野菜などの天然染料を用いた手染めが特徴的ですよね。具体的に、今はどのような素材を使って染めているのでしょうか?

リンジー:キャベツ、ニンジン、 ほうれん草、ビーツ…。よく使っているのはウコンとコーヒーですね。あらゆる野菜で試しました。素材を鍋に入れて、理想の色が出るまで煮出しています。ネオンカラーなど一部の色は合成染料を使っているものもあります。この2つの染料を組み合わせることで、予想もしなかった配色が生まれるんです。
片桐:ずっと気になっていたのですが〈Edna〉のニットの配色はどのように決めているんですか?

リンジー:特にこれといったルールはなく、感覚的に組み合わせるようにしていますね。あとは、河原で拾った石の模様からイメージが湧いたりすることも。あくまでも直感を大切にしています。
片桐:今回の〈インターナショナルギャラリー ビームス〉と〈Edna〉のコラボレーションでは、また一風変わったアプローチで色合いや柄を決めましたよね。
リンジー:とっても刺激的だった!でも最初はコミュニケーションが少し大変だったんです。片桐さんがイメージする色をリストアップしてもらったんだけど、そこから感覚を擦り合わせることが難しくて。そんなとき、片桐さんがとある絵画の写真を送ってきてくれました。視覚的なインスピレーションはとても大切で、そこに言葉は必要ない。彼女が求めている〈Edna〉像を理解することができたんです。
片桐:絵画を使ったコミュニケーションを経て、互いに良いと思う絵画を送り合うことで、カラーインスピレーションとなる部分を探っていきました。色彩はアースカラーや淡くフェミニンな色合いまで様々な配色パターンを話し合って決めていきました。 ジョージア・オキーフの作品などがイメージが浮かびました。少し儚い雰囲気と淡い配色がぴったりだね!とリンジーと話し合って決まりました。
では、ニットに使われている素材はどのようにして選んでいるのでしょうか?

リンジー:基本的にモヘアを使っています。染めたときの表情がよく出るので、ブランドを始めた当初から愛用している素材ですね。でもこれからは、新しい素材にも挑戦してみたくて!例えば、日本では馴染みのある和紙とか。染めたときにどんな色が出るかも含めて、とても気になっています。あとはチュール。今回のコラボレーションで初めて使ってみた素材です。
片桐:チュールを使うアイデアは、私たちから提案しました。リンジーが以前コラボレートした〈Renaissance Renaissance〉の、服作りの過程で生じた残布のチュールを使ったらどうなるんだろう?という好奇心があったんです。リンジーにとっても始めての試みとのことで、意欲的に取り組んでくれました。その結果、このカーディガンが生まれたんです。
リンジー:〈インターナショナルギャラリー ビームス〉とのコラボレーションアイテムは、ブランドを始めてから、初めて作ったカーディガンなんです。おばあちゃんが大切に着ていたニットもカーディガンだったから、なんだか親近感があって。

片桐:カーディガンって、寒暖差に合わせて頻繁に脱ぎ着をする日本人に人気のアイテムで、海外ではそこまでポピュラーではないんですよね。だけど、リンジーさんの思い出の品ということもあり、上手くいくような気がしていて。毎日着られる、普段使いできるデザインに仕上がり、〈インターナショナルギャラリー ビームス〉のファンのみなさんに喜んでいただける1枚になったと思います。
リンジー:このカーディガンは、前後ろを逆にして着ることもできるんですよ。そうすると柄が変わって、少し新鮮な印象になる。遊び心のあるスタイリングを含めて、色々と着回しが効くものを作りたかったんです。だから、自由な発想でこのニットを楽しんでくれたら嬉しいですね。

BEAMSと〈Edna〉。密なコミュニケーションによって生まれたコラボレーションアイテムは、9月14日(木)から9月24日(日)まで開催するPOP-UPショップでお披露目となります
片桐:別注したカーディガンのほかに、プルオーバーのセーターやベスト、スヌードなど、全部で6型を販売します。どれも一点もので、色の組み合わせや柄使いも異なります。店頭だけでのラインナップとなりますので、ぜひ実際に手に取って〈Edna〉の世界観に触れて欲しいなと思います。
リンジー:ボートネックのセーターは、片桐さんやスタッフの皆さんが、あえて襟を立ち上げてスタイリングすることで新しい表情を引き出していて新鮮でした。クシュッとスヌードのように寄せても可愛いですね。襟部分にはチュールを使って、肌触りがよく快適に過ごせるように工夫してみました。先ほどお伝えしたように、前後ろを逆に羽織るなど、着る人によって自由にアレンジできるようなデザインにしています。ベストは基本的にワンカラーですが、その中で自然に溶け込むようなグラデーションを表現しています。スヌードは一つひとつ個性あふれるデザイン。同じ柄や色はふたつとありません。

今回のニットは、ロマンティックでフェミニンな要素を取り入れているんです。チュールを使ったり、淡い配色にしたりなど、私自身、新しい挑戦もありました。刺激的でとても楽しい試みでしたね。この縁が繋がって、また次のシーズンも何か面白いものが作れたらいいなと思います。例えば、最近スケッチしているニットで作ったテーラード感の強いブラウスとか。インスピレーションに溢れた魅力的なコラボレーションになったと思います。
Edna
デザイナーのリンジー・スミスが2019年に設立したニットブランド。パリを拠点に、一点もののニットをユニセックスで展開している。天然染料を用いた手染めにより鮮やかかつ優しく発色するモヘアは、ひとつとして同じものがない独自性を生み出している。
Instagram: @eeeednaaa