Culture meets rock.

柳 寛 2024.05.08

ブライアン・ジョーンズがシタールにのめり込み、ビートルズメンバーがインドへと旅立ち、ヒッピーがラブ&ピースを掲げた時代。ある日本人ロックバンドはお経を流しながらファズ・ギターを弾いた。恍惚と『Voodoo Chile』のソロを弾いたジミヘンのように。

と、なんとなくかっこよく語ってみました。そのある日本人ロックバンドとは、日本最古のガレージパンクと評価されている1960年代結成のバンド、アウトキャストのメンバー水谷公生と穂口雄右によって結成されていた、People。本作は1971年にリリースされたものですが、近年国内クラブシーンを中心にじわじわと再人気となり、2018年にリプレスされるもあっという間に完売してしまった一枚でした。

リズムパートとして木魚を叩く音。他にも下駄の音であったりとフィールドレコーディングを入れている点も当時では珍しく、彼らのユーモアが伺われます。


【日本語帯付きLP】People / Ceremony Buddha Meet Rock〈テイチクエンタテインメント〉
価格:¥4,950(税込)
商品番号:29-67-1043-500

周知の通りですが、当時欧米では上述のように、インドの文化にヒントを得たアーティストが多く現れました。その一つとしてサイケデリック・ロックは生まれ、そんな欧米のムーブメントを日本人はさらに取り入れようとしました。彼らがどこまでの構想で行っていたのかはわかりませんが、仏教の要素を取り入れようとしたこの試みは面白いですよね。

考えてみるとお釈迦様はインドの人であるし、ここで唱えられる言葉「南無妙法蓮華経」はインドで使われていた古代語、サンスクリット語に起源を持っているそうです。もちろん仏教は日本独自でも発展してきたものですが、このフィルターを通すことで、欧米とは違うルートでインドの文化や思想にアクセス出来るということにもなりますよね。つまり、日本人は自分達の先祖から継いだ思想の一部を辿っていくことで、ヒッピーの理想を追い求めることが出来たのかもしれない。そう考えるとなんだか感慨深い気持ちになってきます。(そもそもヒッピー達にとって特に日本、中国などの東洋思想は同じように重宝されていたので、大したことを述べていない気もしますが。)

音楽の世界で仏教、特に禅に影響を受けたアーティストとしては、現代音楽の巨匠ジョン・ケージがすぐに浮かんできます。哲学者の鈴木大拙を通して影響を強く受けたそうです。中国の『易経』の影響もあるようですが、偶発性や一回性、沈黙に重きを置いた彼の姿勢からは納得できる点が多々あります。ちなみにそれ以前にはインドの音楽、思想を深く研究していたそうです。

同じジョンという名前で、まさにサイケデリックな作品を作っていたジョン・レノンも、後に禅や俳句に影響を受けて『アクロス・ザ・ユニバース』『ビコーズ』といった、簡潔な構成へと変化します。インドから日本へと関心を移していった彼らと、サイケをそのまま仏教と結び付けたpeopleとは、それぞれの国の文化の根底的な部分での違いを感じますよね。

さて、話に落ちがあるのかないのかよくわからないので、最後にジョン・ケージが多用していたという言葉で締め括ることにします。

「私には言うべきことが何もない、と言いながらそう言っている」