スラッカー

yutaka yanagi 2025.01.16

お正月からの連休が一旦落ち着きましたね。精神的に少し辛めですが、どうかご安心下さい。この世には音楽があります。

無気力のときには無気力を肯定してくれる音楽を聴くと、特に何も変わらず無気力でいられるのでおススメです。そして無気力といえばスラッカー・ロックです。

元々スラッカーというワードは、大戦時に徴兵制を拒んだ人々を指していましたが、90年代に働く意欲のない若者を指すものとして欧米で使われ始めました。近年でも中国で寝そべり族が流行したように、経済の発展と共に現れる社会現象の一つとして、研究している方が多くいらっしゃるようです。また社会活動のアクティヴィズムと混ぜて、スラックティヴィズムというワードも生まれたりしています。

PavementやSparklehorseらはまるで彼らの代弁者かのように、粗削りな楽曲構成から脱力したヴォーカル、ローファイな録音。チューニングがずらされていたりと、あえてのルーズな姿勢を見せ、商業的な音楽への反発も示しましたニューウェイブも段々と熟練さを見せ、シンセ等機材の進化もあり、どのジャンルも洗練された印象のあった80年代後半への揺り戻しもあったのでしょう。個人的にはOasisやNirvanaが隆盛を極めたのもこの流れに起因していると思いますし、世代、音楽性としても重なりますね。反対に、英ガーディアン紙にスラッカー・ロックの代表曲の一つに『creep』を挙げられていたRadioheadは、アルバムの度にロックの枠を飛び出し高度な音楽性へと進化していきました。

スラッカー達がIT革命と共に、インターネットと迎合したことで自分たちのユートピアを作り出すことに成功しますが、それも束の間の出来事。すぐさま新たなビジネスの開拓地となり今日のYouTubeやSNSへと繋がっていきました。

音楽の面でもPCが大きな負荷に耐え得る規格へと進化したことでDTMが世界中に普及。マルチトラックにオーバーダビングすることで楽曲を作っていたことがデビュー前のミュージシャンにとって一般的だったのが、録音をクリックで簡単に繋ぎ合せられるなど、果てしない可能性を手に入れました。この間にヒップホップが音楽産業の頂点に上り詰め、ロックンロールもリバイバルが起こりました。とはいえ、その中心となったThe Strokesはデビュー時からテクノと60年代のThe Velvet Undergroundを結びつけるなど、それまでにはなかったミックスのさせ方をしていたようでしたし、Arctic Monkeysはitunesのダウンロードによって大きく売り上げを伸ばし名声を手にしたので、ネット以前の土台とは異なることがわかります。さらに2010年代からは、インターネット社会が作る情報過多のカオスを体現したようなヴェイパー・ウェイブや、OPN、ARCAらが現れますが、アナログな流れもまた同時に起こるものです。Mac DemarcoやAlex Gらを中心にスラッカーが再び脚光を浴びました。シティポップの再燃とも混ざって独自のスタイルへと進化しており、より牧歌的で温かい雰囲気が彼らの特徴のように思います。

【CASSETTE】Bloody Death / Some More Poison〈Smoking Room〉
価格:¥2,750(税込)
商品番号:29-69-0222-526

さて本作は、如何にもエモいアーティスト名とタイトル、そしてジャケットデザインです。しかしながら、意外にも穏やかでまさに初期スラッカーのような懐かしい雰囲気と、ソングライティングのセンスの良さが際立っています。特にギターのリフやソロが醸し出すイナたい感じが堪りませんね。インディロック好きや郷愁の甘いコタツに入って疲れを取りたい方など幅広くおススメです。