日が長くなって、帰り道でちょうど君のことを思い出している。

藤尾 洸喜 2019.09.08

もう15年くらい前になるかな。

学生バンドの延長線上に佇みながら、のんびりとライブ活動をしていた。


いつものように地元のライブハウスでリハーサルを終え、控え室で共演するバンドマンの方々を挨拶や会話を交わす。

すると初めて対バンするバンドのギタリストのことが、とても気になった。

こちらから話し掛けても、俯いたまま目も合わせずに、聞き取りづらい小声で応答する。


「なんだこの人、すごく暗いんだな。」


第一印象はそんな感じだったかな。


自分のライブを終え、さっきのギタリストが気になったから観客席に降りて、彼を見上げる。


ギターは下手。

結構下手。


でもステージにいる彼は控え室の態度とは180°変わっていて、楽しそうにギターを掻きむしっていた。

そしてギタリストである彼が、ボーカルに代わって歌うことがあったんだけども、それがめちゃくちゃにかっこよかったんです。

あれは忘れられないなー。



「すいません、俺、自分のバンド抜けるんで、きよしさんも抜けて俺とバンド組んでください。で、ギターはやめて歌って下さい。」


彼のステージを見てから、私がそう声掛けるまでにそんなに時間を要さなかった。



彼の名前は、井澤聖一。

度がすぎるほどに寡黙なことと、風采の上がらない雰囲気、『裸の大将』の山下清さんに似てるということで、『きよし』と呼ばれていたんです。


それから私はきよしさんとなら絶対に良い音楽が出来ると、根拠のない自信に溢れて大学を中退。

今になって振り返り、後悔していないのかと問われると、即答は出来ない。

でもその時はそれしかないと思ったし、そうしたいと思っていた。



その後、なんだかんだで上手くはいかず、私はバンド活動を諦めることになった。


学生時代から鉛筆も持たずに、ギターばかり弾いていた私には何ひとつ残らなくて、気がつけばビームスに10年以上もいる。


私が戦線離脱した後も、きよしさんは音楽活動を続けている。

きよしさんがギターボーカルを務めるモケーレムベンベは、2019年9月4日に全国発売の1st EP『通りすぎる町』をリリースしました。

リード曲でもある『彩都線にのって』は、流れるようなメロディが美しいミドルテンポのバラード。

彩都線って、みんな知ってるんかな?

関西人でさえ知らない人も多いんじゃないかなという程、大阪の北摂地域を走るローカルなモノレールの路線なんです。

なんで彩都線なのかは分からないけど、ローカルだからこその良さもある。

山手線とか小田急線なんかにすると、聴く人のイメージが固まりすぎる気もするし。


涙腺をほぐすような心地良いベースライン、電車の走るリズムを彷彿させる独特なスネア打ちのドラミング、そしてきよしさんのギターと歌声が絡む。


この曲、歌が始まると間奏を挟まずに最後まで続くんです。

まるで電車のように流れて。


そして最後には、最初と一言も変わらない歌詞。

普通、こういうのは若干の変化を加えて心境の変化をなぞらえたりするもの。


きっときよしさんにとって、よっぽど大切な歌詞なんやろね。



いずれにせよメロディーも歌詞も、珠玉の一曲である。


みなさん、良ければご視聴あれ。