
新井伸吾
1980年生まれ。2003年にBEAMSのショップスタッフとして入社。「ビームスT 原宿」の店長を経て、2017年にメンズカジュアル部門のバイヤーに就任。現在までに100以上にも及ぶ別注企画を生み出したBEAMSきってのヒットメーカー。2024年春夏シーズンより、オンコ ートとオフコートをつなぐスタイルを提案するテニスブランド〈Setinn〉を始動 。

小林 景太
1989年、福井県生まれ。中学時代からアメリカに魅せられ、20歳でシアトルへ留学。大学卒業後はカナダ・トロントに移住し、コーヒー作りを学びながら放浪の日々を送る。2015年に BEAMS に入社し、2019年から現職のメンズカジュアルバイヤーに。趣味は食べて飲むことで、1995年式の Mercedes-Benz W124 を愛してやまない。

小川 涼
1997年生まれ。19歳ごろにアルバイトで店舗勤務を始め、「ビームス メン 渋谷」のショップスタッフを経て、現在はバイヤーとしてメンズカジュアル部門を担当。 ファッションだけでなくバイク好きでも知られ、大型免許も取得済。
Chapter1
日常にある一足を、最強の一足に

革靴に向かい風が吹いていた時期も、〈BEAMS〉にとって〈Clarks〉の位置付けが変わることはなかった。
彼らの本社が移転することのないように、BEAMSの店内にもずっと〈Clarks〉のフットウェアは、ただ物静かに鎮座してきた。だが、バイヤーたちにとって、このシューズブランドはより日常に近いところにある。実際に履き、使い込み、気づけば何足も手元に残っている。売り場に並べる以前に、自分たち自身がその身をもって長年愛用してきた靴でもあるのだ。
小林:『Desert Rock』も『Wallabee』もそうですけど、みんなボロボロになるまで履いてますよね。履きやすいし、オールマイティ。僕たちは〈Clarks〉のことが好きなんですよね。
新井:ベーシックの代表格だからじゃないかな。レザーシューズなんだけど、所謂レザーシューズとも違うし。セレクトショップにはなくてはならないブランドだと思うよ。




理由を一言で説明するのは、意外と難しいのかもしれない。ヨーロッパの匂いを足元に入れたい時には、自然と手が伸びる。アメカジとも相性がいい。ストリートのムードにも、品のある装いにもなじむ。どこか中間にあるようでいて、実はどこに配属されてもきちんと接続できる。その幅の広さこそが、〈BEAMS〉にとって〈Clarks〉が長く特別であり続けた理由なのだろう。
〈BEAMS〉と〈Clarks ORIGINALS〉の別注、この文字列を見て「GORE-TEX」がピンと来た人は、なかなかの通である。
小林:いつしか、僕らの別注はGORE-TEXにこだわり始めたんですよね。定番の『Desert Boots』や『Wallabee』にGORE-TEXを搭載して「この靴、最強じゃない?」って思ってたんです。
新井:「見た目でわかるクレイジーさ」はそんなに必要じゃないからね。求めているのは「履いてみてわかるクレイジーさ」。普遍的な歴史があるものだから、それを大きく壊す必要はない。〈BEAMS〉なりの洒落やユーモアを、少しだけ込めていくような作業なんだよ。





派手に印象を変えることはない。元々備わっている普遍性を尊重しながら、履き心地や機能、あるいはシルエットのわずかな違いの中に、解釈を差し込んでいく。その積み重ねが、長く続く別注の流れをつくってきた。
小川:見た目はベーシック。でも、仕様がちょっとクレイジー。そういう靴は、手に取りやすい。“スニーカーの次の一足”としての提案、そういう独特な立ち位置があると思います。
50周年別注も、ゼロから突飛なものを生み出そうとしたことはない。長年向き合ってきたブランドだからこそ、どこを変えるべきで、どこを残すべきか。その勘所が自然と共有されていた。大きく壊さなくても、深く踏み込める。〈Clarks〉との取り組みには、そんな〈BEAMS〉らしい成熟がすでにあった。
Chapter 2
イギリスの片田舎で確かめた、
変わらないものの美しさ
50周年の節目に〈BEAMS〉はイギリスへの遠征を決断した。ただ、それは何か劇的なアイデアを拾いに行く旅というより、もっと静かな意味を持つものだったように思う。
ロンドンから遠く離れた小さな町にある本社や工場、アーカイブ保管庫を見た経験は、〈Clarks〉というブランドの輪郭と、〈BEAMS〉がこのブランドを長く大切にしてきた理由を改めて確かなものにした。

“イギリスブランド”と聞くと、高貴で華やか、または都会的なイメージを持つかもしれないが、〈Clarks〉にその香りはしない。もっと素朴で、働く人たちが町の中に自然と馴染み、ブランドの気配が土地に溶け込んでいる。ブランドと町が、切り離せない関係にあることは、短い滞在の中でも十分に伝わってきた。
長い歴史を形作るアーカイブは、別の財団が管理しており、シューズだけでなく、紙資料や広告まできちんと残されていた。しかも、単に整理されているというより、その場所や物自体に長い時間が“沈殿”しているような雰囲気があった。
小林:映画の中にいるみたいな感覚でしたよね。至る所で百何十年前の歴史が物語られていて、壮観でした。








現地の空気に触れている時間は、発見以上に、“答え合わせ”のような感覚だった。売り場で提案し、別注を重ねながら守ってきた〈Clarks〉像が思い込みではなく、本質に近いものであったという確認は、50周年の別注を企画する上でも大きな自信となった。
一方で、〈Clarks〉=昔のブランドというのは、異なる認識だ。近年のコラボレーション、新しいモデル群には現代的な視点があり、風向きは常に微調整されている。
小川:形はオーセンティックなんですけど、今の時代に対するアプローチはしっかりとしているなと感じます。新型をドンドン出すというよりは、自分たちのアイデンティティの中にあるモデルを、今の感覚で調理するようなイメージですよね。
そして、〈BEAMS〉と〈Clarks〉の間には、敬意という土台の上に、互いのチームの“距離感”という強みがある。一部社内のメンバー同士は、ひとつの取引先以上の信頼関係が構築されており、海外のファッションウィークで遭遇すれば、その後の時間を共に過ごすような間柄だ。
今回イギリスに赴いたのは、緊張感のあるプレゼンテーションをするためではない。完成された関係性と信頼関係を前提に、熱量や目線など、言葉だけだと伝わりきらない提案を手土産に、そこからさらに精度を上げていくための作業をするためだった。

Chapter 3
〈Clarks〉でつくる
本当に履きたいローファー
50周年別注で製作したローファーだが、これも新しいものをゼロから思いついたわけではない。出発点は、既存モデルに対する、率直なアプローチだった。
小川:『WallaLoafer』はインラインであるんですけど、その型と僕らのローファー像に乖離がありましたよね。〈BEAMS〉が思うローファーに近づけたいと言う感じで。
小林:そうでしたね。メンズはトゥが長くて、ウィメンズは逆に短すぎる。かなり細かく見ていきましたよね。
この“どちらも少しだけ違う”という感覚は、今回のものづくりをよく表している。単に〈Clarks ORIGINALS〉の『WallaLoafer』を別注で発表したいわけでもなく、逆にローファーらしさだけを優先して個性を消したかったわけでもない。求めていたのは、その中間にある、ごく繊細な輪郭だった。『Wallabee』の空気は残しながら、〈BEAMS〉が本当に履きたいと思えるローファーへと整えていく。その微妙な着地点を探る作業が、今回の核心だった。



アメカジに源流がある〈BEAMS〉が、イギリスの老舗ブランドに自分たちの思い描くローファーのニュアンスをぶつけてみること。少し捻れた発想かもしれないが、そのズレこそが別注の面白さであり、東京らしさになる。
そして、その発想を成立させるために、今回は目に見えない部分まで含めて、かなり細かく設計が見直されていった。履き口の傾斜、サドルの位置、トゥの長さ、甲まわりの見え方。時間をかけて丁寧に、細部を少しずつ修正した完成系は、既存モデルと比較するとその違いが顕著になった。
小川:一番大変だった工程は、傾斜と履き口のバランスでしたね。サンプルを何回か作ってもらっても、まだ完全には汲み取ってもらえてない感覚があったので、〈BEAMS〉が思い描くローファーの写真を送って、イメージをより明瞭に視覚化する作業を行いました。
小林:「まだそれやってるの?」と思ったこともあったぐらいですよ(笑)。ただ、その甲斐あって、中足部から履き口にかけては全く新しいものになりましたね!でも、つま先周りの雰囲気はちゃんと『Wallabee』ですし。
もし、ローファーらしさだけを追い求めれば、別の方法もあったはずだ。けれど、そうしなかった。パンツの裾から覗くトゥボックスは、誰が見ても『Wallabee』の表情。その佇まいの先にあるディテールだけを大きく引き直す。ブランドの核を残す慎重さにこそ、今回の別注の成熟があると、バイヤーたちは自負している。




言わずもがなだが、〈BEAMS〉と〈Clarks〉の別注の代名詞であるGORE-TEXも組み込まれている。もはやそれは単なる追加機能ではなく、日常で履くための思想に近い。
小林:このローファーで、GORE-TEXって本当にすごいことですよね。これ以上は存在しない、最強の日常履きですよ。
小川:ローファーというカテゴリーであれば、他の選択肢もありますからね。〈Clarks〉のチームは、毎回「お前ら、今回は何がしたいんだ?」という感じで、僕らの話を面白がって聞いてくれるのが嬉しいです。
小林:ただ言えばいいわけじゃなくて、現地まで行ったり、僕らの先輩バイヤーの時代から築いてきた関係性があった上でのことですよね。
王道を守ることと、そこに新しい解釈を持ち込むこと。その両方を成立させるには、ブランドへの敬意だけでは足りない。長く付き合い、何度もやり取りを重ね、その先に無理難題も楽しめる関係が待っている。
今回の『Wallabeams Loafer GORE-TEX』は、そうした時間の上に生まれた一足だ。『Wallabee』らしく、〈BEAMS〉らしい。その静かな矛盾を丁寧に成立させたところに、両者の現在地と関係がそのまま表れる格好となった。

新井:僕の息子、これで卒業式に行きたがってました。先輩も息子の入学祝いにプレゼントしたいって。あと、〈Clarks〉あるあるだけど、ソールの保護フィルムを剥がすの忘れちゃうよね(笑)。
家族の通学に、あるある。裏ばなしの着地も、最終的には日常に舞い戻った。特別な別注でありながら、ちゃんと生活の中へ戻っていくこと。それもまた、〈BEAMS〉が〈Clarks〉を愛する理由なのかもしれない。
※本記事のアイテム画像は試作品となります。製品の最終仕様は下記をご参照ください。
Clarks ORIGINALS × BEAMS『WallaBeams Loafer GTX』






