倍加していく

柳 寛 2025.01.12


【2LP】Les Rallizes Denudes(裸のラリーズ) ‎/ The Oz Tapes〈Temporal Drift〉
価格:¥6,600(税込)
商品番号:29-67-1335-526

新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

さて、昨年末にロック好きを唸らせるリプレスを入荷しておりました。日本のロック創成期を代表するバンドの一つであり、シューゲイズの元祖とも噂される、Les Rallizes Denudes(裸のラリーズ)によるライブ音源です。1972年から僅か1年ほど吉祥寺駅にあった、知る人ぞ知るライブハウスOZでのパフォーマンスを収録したもので、久保田真琴によるリマスタリングによって完成したものです。

彼らの公式のリリース音源はごく僅かしかなくプレス数も僅か。その為に00年代のネット社会の始まりとともに世界中にブートレグが出回り、こちらのみを聴いてきた方も多いかと思います。近年公式でのリリースが続き、本作もその一つとなっています。

同バンドは水谷孝を中心に存在しており、ファンの間ではもはや水谷孝そのものと良く言われています。インタビューなどメディア露出は殆どせず、沈黙を守り続けたことで、謎に包まれた存在としてさらにカルト的な人気を得たことも興味深いお話です。ブートレグが出回ったと書いた通り、海外での評価も高く、MBVのKevins SheildsからLady Gagaなど彼の影響を示しているミュージシャンも多数います。


また黒を好み、詩を纏ったような雰囲気と、華奢で中性的なルックスは、元CELINEのデザイナー、Hedi Slimaneのコレクションにいかにも出てきそうなカッコ良さなんですよね。

肝心の音楽のスタイルはというと、爆音で鳴るギターのフィードバックノイズと極端にエコーの利いたヴォーカルが特徴的です。しかし、そんな過激さに同居するのは、彼自身の繊細さと優美さ。強烈なはずなのに、うっとりと聴けてしまうんですよね。また、個人的には当時の日本にしかなかった血生臭さのようなものを追体験しているような気分にもなれます。このスタイルになったのも、偶然の要素もありますが、根底には海外アーティストには持っていないオリジナリティを目指したが故にだったそうです。江戸時代に生まれた出目金しかり、歌舞伎、北斎の浮世絵しかり。アニメキャラクターの目の大きさしかり。特定部分を誇張もしくは倍加させることが日本人らしさの一つなのだろうといつも思うのですが、彼らのスタイルもまさにそれですよね。後に生まれたハーシュノイズという音楽ジャンルも象徴的です。

しかし本作は、まだ彼らのキャリアの中でも初期の方でもあるからか、エコーはかかっておらず彼の歌声を直に聴くことが出来ます。ギターソロもノイズが少ないので素直に聴けるものが多く、Jim Hendrixの影響等も分かり易く感じられます。ファンにとっては新たな発見の出来る貴重な音源として、未聴の方にも入り口として最適かと思います。

陽気なシティポップも勿論素晴らしいですが、同時代の陰気なサイケデリック・ロックも、もっと多くの方に聴いていただきたいですね。