こんにちは。BEAMS RECORDSスタッフの和田です。
先日、当店でも販売中の『マジエルのまどろみ』を制作した作曲家の磯田健一郎さんのインタビューを最近読んだのですが、その内容がとても興味深かったです。90年代にアンビエント/ニューエイジ・ミュージックを発表し、吉村弘や芦川聡と近いフィールドで活躍した彼によって、過去の作品の再録音やその手法、アンビエントや音楽制作に関することが語られています。
こちらは店頭のみのお取り扱い。\2,750(税込)
その中で印象的だったのが、今のアンビエントと言われる音楽には「ソフトウェアからはみ出していない」「空気が鳴っていない」ものがあるという指摘でした。彼らはパソコンとヘッドホンを使って製作していて、スピーカーを使っていないため、和音が響いていないことが分からないからとのことです。
確かに、そもそも音とは空気の振動であり、その場で楽器から鳴っている音を録音していたのが音楽制作の始まりだったはず。ですが、いつからかパソコン一台あればその中で音を作り、その中で録音ができるようになりました。それ自体は便利で、音楽の発展に繋がったと思いますが、スタジオのマイクで録音された音に含まれるその場の響き(空気感)はそこにはないのかもしれません。
以前にアーティストの小袋成彬氏が、スタジオでレコーディングをしている場合も、楽器の音以外の余計な音の響きを減らすのが日本では主流であるのに対して、ロンドンのスタジオは(その場で)出て来たものを良しとする多様性や偶然を許容する懐の深さがある、と語っていました。
それで思い出すのは、かつてドイツのロックバンドCANは、「Future Days」をレコーディングする際に、自分たちのスタジオのドアを暑さを理由に開けっ放しにして録っていたため、独特の音の響きを生んだという話。またボーカルのダモ鈴木が座っていた椅子のクッションのカサカサとした音もマイクに入っていて、それも楽曲の一部になったというエピソードもあります。
話がだいぶ逸れてしまいましたが、音楽を聴くときにメロディやリズムだけでなく、そういった録音環境から生まれる音の響きや空気感の事も考えながら聴くと面白いかもしれません。
ということで話が長くなってしまいましたが、最近入荷した作品をご紹介します。
まずはCANのメンバーであるHolger Czukayのソロ作品から。
【帯付き初回生産限定盤LP】Holger Czukay / On The Way To The Peak Of Normal〈P-VINE〉
¥4,400 (税込) 商品番号:29-67-1168-538
クラウトロック・バンドCANでベースを務めていたHolger Czukay(ホルガー・シューカイ)による1981年発表のソロ・アルバム。同じくCANのドラマーJaki Liebezeitのミニマムなドラムに合わせて、ギター、ラジオ音声のコラージュ、オルガンなどが変幻自在に繰り広げられていきます。
KraftwerkやNeu!などのバンドの録音に関わり、多大な影響を与えたドイツの重要エンジニア/プロデューサーのConny Plankや、P.I.L.のベーシストJah Wobbleなど個性豊かなミュージシャンがゲスト参加。演奏の録音後に実験的な編集とエフェクトが施されており、演奏時の空気感を強調したり再構築しているような印象を受けます。エクスペリメンタルな作品がお好きな方はこの機会に是非どうぞ!
次にご紹介するのは、スタジオのセッションの空気感が楽しめる作品。

【LP】Qwalia / Abbreviations〈Albert's Favourites〉
¥5,720 (税込) 商品番号:29-67-1146-526
こちらは、ロンドンを拠点に活動するジャム・バンドQwalia(クワリア)の2nd アルバムです。ドラマーのYusuf Ahmedを中心に、ベーシストのBen ReedやギタリストのTal Janes、キーボード/シンセ奏者のJoseph Costiなど、Frank Oceanなど数々のアーティストの楽曲にも参加する実力派のミュージシャンが参加。
ジャンルにとらわれない即興演奏が特徴で、今作も1stアルバム同様、2021年4月にロンドンのフィッシュ・ファクトリー・スタジオで行われた13時間のセッションから抜粋されたものになります。即興演奏ならではの生々しさがありながらも、技術に裏打ちされたクオリティに驚かされる一作。
最後にご紹介するのは、楽器や声の重なりが美しい、話題のコラボレーション作品です。

Milton Nascimento & Esperanza Spalding / Milton + esperanza〈Concord〉
CD ¥3,300 (税込) LP ¥6,270 (税込)
「ブラジルの声」とも称されるほどブラジルを代表するミュージシャンのMilton Nascimento(ミルトン・ナシメント)。本作では、グラミー賞を通算5度も受賞してきた実力派ジャズ・ベーシスト/シンガーのEsperanza Spalding(エスペランサ・スポルディング)とコラボを果たしました!
Milton自身の楽曲や愛聴してきたブラジル音楽、The Beatles、Michael Jacksonのカバーに加え、Esperanzaが2曲を新たに作曲。UKジャズを牽引するShabaka Hutchings、坂本慎太郎ともコラボするブラジルのロックトリオO Ternoの中心人物Tim Bernardes、ロンドンのSSWのLianne La Havasなど豪華なゲストが参加している点も見逃せないポイントです。
ブラジル音楽の自由さやジャズらしい演奏が合わさりながらも、どこかポップな仕上がりになっている印象です。ブラジル音楽を聴き始めるきっかけにもなりそうな一作。
こちらは音源ももちろん良いのですが、アメリカのラジオ局であるNPRの人気企画「Tiny Desk Concert」でのライブ映像(こちら)も素晴らしかったです。ライブ音源だとそれぞれの楽器の鳴りがはっきりしていてそれも良いですね。Mlitonが座りながら歌っているのも渋いです。
以上、新入荷の中からご紹介させていただきました。
最後まで読んでいただきありがとうございました!