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テクノロジーと音楽

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の解除により、ライブハウスやクラブの営業を再開することが出来るようになってきていますが、まだまだ気の抜けない状況が続いていますね。音楽に限らず、生で体感するエンタテインメントが苦しい状況にある一方で、「VARP」のようにアバターを介して仮想空間の中で体験を共有出来るシステムを提供するといった動きも注目されていて、それが社会において今後どのような影響を与えていくのかは私にはわかりかねますが、時代の変化というものを感じずにはいられません。

そして、それが音楽においてどのような変化を与えていくのかということを最近よく考えています。音楽はテクノロジーの進化や社会情勢など時代の変化に伴って、生まれ変わり続けていると思うからです。また、たとえば古くはエリック・サティによる「家具としての音楽」という概念や、ジョン・ケージの無音もしくは自然発生音を音楽として捉えるという発想、ブライアン・イーノによる「アンビエント」の提唱など、新たな哲学の発見のように、斬新な視点が生まれることでも変化していくところが音楽の面白さのひとつですね。



直接関係はないのですが、Sean McCannによるこちらは、ブライアン・イーノやハロルド・バッド、フィリップ・グラスらに続く次世代の才能としてアンビエントや現代音楽好きの方にオススメです!


テクノロジーの話でいえば、シンセサイザーは19世紀半ばに登場した発電機や電話を応用した機械「ミュージック・テレグラフ」から発展し、電気信号として楽器音を出力出来るようにした「テルハーモニウム」というものがルーツと言われており、このことはまるで科学、機械文明そのものを語っているようです。それはテクノというジャンルの歴史とも直結していますが、実際にはテクノだけでなくポップス、ロック、ハウス、ヒップホップなど様々なジャンルに深い影響を与えています。

また、かつて音楽は音楽家たちが演奏する場でしか聴く事が出来なかったのが、録音技術の発達により家庭でも自由に楽しめるようになりました。一方の音楽家側も、たとえばグレン・グールドのように、録音テープから必要な部分をつなぎ合わせ、実際の演奏と組み合わせることで、生演奏だけでは表現しきれなかった音楽を実現しようとしました。1970年代終わりには<TASCAM>がカセットテープMTR「144」を発表し、それまでプロのミュージシャンしか扱うことの出来なかったマルチトラック・レコーダーがアマチュアのミュージシャンでも安価に手に入れられるようになったことも大きな変化でした。ロックの世界ではピクシーズのブラック・フランシスがこれを巧みに利用し、それによって同バンド特有のブリッジ→バース間でのダイナミックな展開が生まれ、さらにニルバーナのカート・コバーンがこれを真似したことで、このスタイルは90年代のロックシーンでの主流になっていきました

90年代終わりから2000年代に入ると、コンピューターの発達に伴って登場したDTMによって、音楽制作における可能性がこれまでにないレベルに高まり、エレクトロニカが台頭。2010年代にはインターネットの発達により情報過多となった現代社会さながら、ジャンルがぐちゃぐちゃに混ぜ合わされ、それを塊のように吐き出した音像を創り上げたダニエル・ロバティンによるOneohtrix Point Neverが現れたり。


こちらは初の本人名義ダニエル・ロパティンとしてリリースした一枚。アダム・サンドラー主演、サフディ兄弟監督の話題作 『UNCUT GEMS』のサウンドトラックとして制作されましたが、ここでも彼の才能が爆発しています!



と、ざっと変遷を述べてきたのですが、エレクトロニカといえばAlva Noto(アルヴァ・ノト)ことカールステン・ニコライが新作アルバム『Xerrox Vol.4』をリリースしました。


カールステン・ニコライは池田亮司とともに語られることが多く、前述した00年代のエレクトロニカのムーブメントの中で現れた存在です。両名とも、PCなどの電子機器から鳴る起動音や接触不良で起こるノイズなどを緻密に繋ぎ合わせたスタイル「グリッチ」の中心的人物として知られているわけですが、彼らは音を流しているというよりも、美意識のもとに音を配置し、彫刻のように空間を演出しているようカールステン・ニコライは元々ランドスケープ・デザインを専攻していたのですが、そんな新たな視点(分野)から音楽を創造しているように感じられます。また、ライブではカールステンは映像作品も流し、池田はインスタレーションの形式をとるなど、聴覚以外からの表現も同期して行なっていて、ドナルド・ジャッドのようなミニマルアートとも比較して考えることが出来ます。こうした特質は、彼の新作を聴いても深く頷けるものがあるのではないでしょうか。本作ではSF映画のサウンドトラックのような壮大なサウンドスケープを描いているのですが、彼ならではの美意識が随所に感じられます。



音源ソフトのアートワークも毎度細部まで徹底しており秀逸!

テクノロジーや時代背景が新たな音楽(=芸術)を創る契機になり、また発想次第で面白い音楽が生まれるという事実。そんなことから、音楽は時代を映す鏡とも称され、時には時代への強烈なアンチテーゼとして、心をえぐるような表現が生まれて私たちに様々なメッセージを訴えかけてきます。と、このように考えれば考えるほど、つくづく音楽は面白いなという結論にたどり着く今日この頃です。