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薪風呂から考えるアナログの良さ

こんにちは。BEAMS RECORDSスタッフの和田です!

突然ですが、皆さんは銭湯はお好きでしょうか。私は家から歩いて5分ほどのところに銭湯があるのですが、めんどくさくてあまり行きません。たまに行くと気持ちいいのですが、お湯に浸かったりサウナに入っている時間が退屈に感じてしまう時があり、家のシャワーで済ませてしまうことが多いです。(最寄りの銭湯はサウナに入りながら、イヤホンをしていたり本を読んでいる人が多く、最初は驚きました。)それから、熱すぎるお湯も苦手で、場所によっては一瞬しか入っていられない時もあります。そんな銭湯が得意とはいえない自分が、先日友人の家に遊びに行った際に立ち寄った銭湯が素晴らしく感動しました。


そこは繁華街のはずれでひっそりと営業されている、昔ながらの銭湯。体を洗ってお湯に浸かってみると何かがいつもと違うことに気づきました。普段だったら入ってしばらくは熱くて、慣れるまで時間がかかるのですが、その日は入った瞬間から優しい気持ちよさがありました。なぜかいつもよりお湯が柔らかい感じがすることに気づき、その銭湯に通っている友人にそのことを伝えると、薪でお風呂を沸かしているから、お湯が柔らかくて気持ちいいのだと教えてくれました。

 

一体それが科学的に証明できる事なのかは自分にはわかりませんが、同じ水道水を使っていても沸かし方の違いで、感じ方がここまで変わるのかと驚きました。さて、銭湯の話が長くなってしまいましたが、これは音楽にも通じる話だと思い、書いてみました。同じ音源を聴いているのにデジタルデータとレコードで音の違いを感じるというのはまさにそうで、アナログなものにはどこか不思議な魅力があり、人はそこに惹かれるのではないのでしょうか。利便性やコスト面でいえばデジタルの方が優れているのに、いまだにフィルムの写真や映像にこだわる作家や、アナログ・シンセサイザーを愛用する音楽家がたくさんいます。

また、当店でお取り扱いさせていただいている〈TAGUCHI〉のスピーカーにも同じような魅力を感じます。元々はコンサートホールや映画館などのために、オーダーメイドのスピーカーを作られていたブランドということもあり、注文が入ってから一つ一つ手作りで作られるスピーカーの音には、どこか暖かみや柔らかさを感じます。高い技術力によって生まれるハイクオリティな音はもちろんのこと、職人の方の手作業によって特別な魅力が宿っているのも、沢山の人々に愛されている理由の一つなのかもしれません。

画像左が〈TAGUCHI〉の スピーカーCANARIO、右がLITTLE BELというモデル。どちらも木目を生かしたデザインが素敵です。

店頭でご視聴もしていただけますので気になる方は是非お越しくださいませ!



話が逸れてしまいましたが、最近はそういったアナログ、オーガニックなものを少しずつ生活の中で増やしていけたら幸せだなと思っています。レコードやカセットテープもその一部ですが、料理を作ったり、コーヒーを淹れたり、植物を育てたりすることにもハマっています。また、最近は生楽器やパーカッションなどが入っていたり、人間らしいグルーヴがあったりと、どこか有機的なエレクトロニックに惹かれることが多いです。


ということで話が長くなってしまいましたが、新入荷のタイトルから個人的にそんな雰囲気を感じるものをご紹介します。




【LP】Contours / Elevations〈Music From Memory〉

¥4,950 (税込)


まず一つ目は、マンチェスターを拠点にドラマーとしても活動するTom BurfordによるプロジェクトContours(コントゥアーズ)の新作。ニューエイジ/アンビエント系の最重要レーベルでお馴染みの〈Music From Memory〉からリリースされました。マリの木琴のような打楽器であるバラフォンの探求から始まったというこのプロジェクトは、広大な自然の中で自分を忘れたいという彼自身の願望が反映されているそうです。アコースティックとエレクトロニクスそれぞれが調和しており、オーガニックなアンビエント・サウンドを創り上げています。パンデミック期に同世代の音楽家たちと自宅でレコーディングされたということもあり、親密で繊細な印象も感じます。Nala Sinephloなどのアンビエント・ジャズ好きな方に是非聴いていただきたい作品です。




【LP】Mixmaster Morris, Jonah Sharp, Haruomi Hosono / Quiet Logic〈WRWTFWW〉

¥6,600 (税込)


続いてご紹介するのは、細野晴臣、Mixmaster Morris(ミックスマスター・モリス)、Jonah Sharp(ヨナ・シャープ)の三者によるアンビエント・テクノの名盤。1997年に細野晴臣のスタジオで制作されCDとカセットでのみリリースされたものが、良質な再発を続けるスイスのレーベル〈WRWTFWWR〉から初めてヴァイナル化されました!有機的に変化し続けるドラムパターンと洗練されたシンセサイザーが絡み合うトラックは、今聴いても全く色褪せないサウンドです。この機会に是非LPでどうぞ!



そして、最後に紹介するのはDIY感溢れるデザインのミックスCDになります。




悪魔の沼 with MOOD魔N / 沼探り〈ALLIGATER〉

¥1,760 (税込)

 

Compuma、Dr.Nishimura、AwanoからなるDJユニット、悪魔の沼。彼らが”FESTIVAL de FRUE 2022”で、MOODMANを迎えた4人の特別編成で行ったプレイを記録したものがCD化。「沼探り」というタイトル通り、4人が様々なジャンルを横断しながら、ディープな世界観でスローなテクノを展開していく様はまさに抜けられない沼のようです。カオスでスリリングなミックスでありながら、経験に裏打ちされた安定感がやはり素晴らしいです!前半78分間がCDには収録されていて、DLコードから3時間のフルバージョン(MP3)がダウンロード可能となっています。盤に押されたハンドスタンプ、ペーパー・スリーブもDIY感がありかっこいいです!



以上、新入荷の中から3点ご紹介させていただきました!

店頭でしか販売していないアイテムもありますので、是非お近くの際はご来店いただけると幸いです♪♪


最後まで読んでいただきありがとうございました。




Less, but better

こんにちは、矢藤です。



本日はミニマルテクノ界に於ける首領Ricardo Villalobos (リカルド・ヴィラロボス)とAmbiq Trio の創設メンバーであり、 Arjunamusic Recordsの創立者でもあるSamuel Rohrer(サミュエル・ローラー)が共作したアルバム『Microgestures』を御紹介致します。


Ricardo Villalobos & Samuel Rohrer / Microgestures <ArjunaMusic>
価格:¥¥4,510-(税込)
商品番号:29-67-0129-526


初めにこの固有名詞の羅列で彷彿とするのは同じくAmbiq Trio のメンバーMax LoderbauerとRicardo Villalobosの共作やVILOD名義の作品が過ぎったりもしますが、 勿論異なる性質のサウンドです。


視聴時の第一印象はミニマルテクノ味全開の印象ですが、後味でクラウトロック味が押し寄せてきます。 


そこで自分のライブラリーから立ち上がってきたのが、83年リリースのMoebius-Plank-Neumeierによる名盤『ZERO SET』の楽曲群の質感です。




個人的に凄い好きな作品で、時代性を感じさせないアノニマスであり、タイムレスな作品です。 サブスクとかにもあるので気になる方は是非!


そうした今回の『Microgestures』と共通してあげられるのがアウトフレーム(輪郭)は律儀で硬質なサウンドでありながらも、マシン・ビートにない身体性のある生ドラムとミニマルテクノの規則性との組み合わせ、そしてそこから自然発生する有機的な揺らぎがあるのだと思います。


普段は洋服屋で働いているので、同じ構造をファッションの分野に置き換えると、2000年始めのミウッチャ・プラダの<PRADA>や<MIUMIU>によくリリースされた、バッグやウェアのヴィジュアル(輪郭)はフューチャリスッティックだけど、使ってる素材はナイロンにまさかのリアルスエードみたいなそこのハイブリッドの匠さが通底していると思います。


はたまたバウハウス文脈に於ける建築家/デザイナーのCharlotte Perriand(シャルロット・ペリアン)のスチール製のフレームと木を組み合わせた『スタンダードチェア』の精神性と表象としてのハイブリッドさも同じ脈があります。


実際に87年に逝去したPlankに捧げた2007年に発表された同作の続編『Zero Set 2』を再構築した作品『Zero Set 2 Reconstruct』をRicardo Villalobosらはリリースしていたり、Mobeiusと同じバンドのKlusterの結成当時のメンバーであったConrad Schnitzlerの傑作「Zug」をRemixしたりと、確実にこの年代の周辺のサウンドが含有していると感じました。


彼のパーソナルなプロフィールも探るとRicardo Villalobmsの中学生の頃にはDepeche Modeに傾倒していたというところからもKraftwerk文脈が垣間見え身近にクラウトロックが同居していたのが分かります。


棲み分けは気にせず、デトロイト、ベルリンテクノ好き、クラウトロック好きに必聴な一作です。



テクノロジーと音楽

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の解除により、ライブハウスやクラブの営業を再開することが出来るようになってきていますが、まだまだ気の抜けない状況が続いていますね。音楽に限らず、生で体感するエンタテインメントが苦しい状況にある一方で、「VARP」のようにアバターを介して仮想空間の中で体験を共有出来るシステムを提供するといった動きも注目されていて、それが社会において今後どのような影響を与えていくのかは私にはわかりかねますが、時代の変化というものを感じずにはいられません。

そして、それが音楽においてどのような変化を与えていくのかということを最近よく考えています。音楽はテクノロジーの進化や社会情勢など時代の変化に伴って、生まれ変わり続けていると思うからです。また、たとえば古くはエリック・サティによる「家具としての音楽」という概念や、ジョン・ケージの無音もしくは自然発生音を音楽として捉えるという発想、ブライアン・イーノによる「アンビエント」の提唱など、新たな哲学の発見のように、斬新な視点が生まれることでも変化していくところが音楽の面白さのひとつですね。



直接関係はないのですが、Sean McCannによるこちらは、ブライアン・イーノやハロルド・バッド、フィリップ・グラスらに続く次世代の才能としてアンビエントや現代音楽好きの方にオススメです!


テクノロジーの話でいえば、シンセサイザーは19世紀半ばに登場した発電機や電話を応用した機械「ミュージック・テレグラフ」から発展し、電気信号として楽器音を出力出来るようにした「テルハーモニウム」というものがルーツと言われており、このことはまるで科学、機械文明そのものを語っているようです。それはテクノというジャンルの歴史とも直結していますが、実際にはテクノだけでなくポップス、ロック、ハウス、ヒップホップなど様々なジャンルに深い影響を与えています。

また、かつて音楽は音楽家たちが演奏する場でしか聴く事が出来なかったのが、録音技術の発達により家庭でも自由に楽しめるようになりました。一方の音楽家側も、たとえばグレン・グールドのように、録音テープから必要な部分をつなぎ合わせ、実際の演奏と組み合わせることで、生演奏だけでは表現しきれなかった音楽を実現しようとしました。1970年代終わりには<TASCAM>がカセットテープMTR「144」を発表し、それまでプロのミュージシャンしか扱うことの出来なかったマルチトラック・レコーダーがアマチュアのミュージシャンでも安価に手に入れられるようになったことも大きな変化でした。ロックの世界ではピクシーズのブラック・フランシスがこれを巧みに利用し、それによって同バンド特有のブリッジ→バース間でのダイナミックな展開が生まれ、さらにニルバーナのカート・コバーンがこれを真似したことで、このスタイルは90年代のロックシーンでの主流になっていきました

90年代終わりから2000年代に入ると、コンピューターの発達に伴って登場したDTMによって、音楽制作における可能性がこれまでにないレベルに高まり、エレクトロニカが台頭。2010年代にはインターネットの発達により情報過多となった現代社会さながら、ジャンルがぐちゃぐちゃに混ぜ合わされ、それを塊のように吐き出した音像を創り上げたダニエル・ロバティンによるOneohtrix Point Neverが現れたり。


こちらは初の本人名義ダニエル・ロパティンとしてリリースした一枚。アダム・サンドラー主演、サフディ兄弟監督の話題作 『UNCUT GEMS』のサウンドトラックとして制作されましたが、ここでも彼の才能が爆発しています!



と、ざっと変遷を述べてきたのですが、エレクトロニカといえばAlva Noto(アルヴァ・ノト)ことカールステン・ニコライが新作アルバム『Xerrox Vol.4』をリリースしました。


カールステン・ニコライは池田亮司とともに語られることが多く、前述した00年代のエレクトロニカのムーブメントの中で現れた存在です。両名とも、PCなどの電子機器から鳴る起動音や接触不良で起こるノイズなどを緻密に繋ぎ合わせたスタイル「グリッチ」の中心的人物として知られているわけですが、彼らは音を流しているというよりも、美意識のもとに音を配置し、彫刻のように空間を演出しているようカールステン・ニコライは元々ランドスケープ・デザインを専攻していたのですが、そんな新たな視点(分野)から音楽を創造しているように感じられます。また、ライブではカールステンは映像作品も流し、池田はインスタレーションの形式をとるなど、聴覚以外からの表現も同期して行なっていて、ドナルド・ジャッドのようなミニマルアートとも比較して考えることが出来ます。こうした特質は、彼の新作を聴いても深く頷けるものがあるのではないでしょうか。本作ではSF映画のサウンドトラックのような壮大なサウンドスケープを描いているのですが、彼ならではの美意識が随所に感じられます。



音源ソフトのアートワークも毎度細部まで徹底しており秀逸!

テクノロジーや時代背景が新たな音楽(=芸術)を創る契機になり、また発想次第で面白い音楽が生まれるという事実。そんなことから、音楽は時代を映す鏡とも称され、時には時代への強烈なアンチテーゼとして、心をえぐるような表現が生まれて私たちに様々なメッセージを訴えかけてきます。と、このように考えれば考えるほど、つくづく音楽は面白いなという結論にたどり着く今日この頃です。