虚実の世界②

柳 寛 2021.07.28

(①はこちらからどうぞ)

進歩史観についてもう少し綴っていきます。日本の経済官僚であり思想家でもある中野剛志曰く、哲学の世界ではいまだに古代ギリシャのアリストテレスをナンバーワンの哲学者として必死に研究している学者が多くいるそうです。その理由というのは、そもそも哲学もしくは社会科学というのは個人の経験に基づいて理解を深めていくものであるので、彼の言説を理解するにはそれだけの力が必要である。だから広まらないし、後世に伝わらないとのことでした。確かにこれまでにも幾多の哲学者たちが彼に続きましたが、どれほどの精度でバトンタッチが出来ていたのかと考えると確証はありません。かつてのパンクロッカーのスピリットを表したD.I.Y.という言葉が、いつの間にか日曜大工のような意味合いでしか使われなくなってしまったことにも通じるものがありそうです。


旧譜もしくはクラシックなスタイルというのは、時代が違うからこそ音楽の根源的な魅力などなにか大事なことを思い出させてくれるような力がありますね。ロンドンを拠点にする両バンドはまさに直球なパンクを感じさせてくれます! 左側のスクイッドSquid)はテレヴィジョン、右側のドライ・クリーニング(Dry Cleaning)はソニック・ユースといった具合にニューヨーク・パンクの影響も強く感じさせます。かつてマルコム・マクラーレンがニューヨーク・パンクのスタイルを自国に持ち帰ったように、UKとUSで刺激し合った音楽史も思い出したりしてしまいます。

【限定グリーンヴァイナル仕様LP】Squid / Bright Green Field <Warp Records>
価格:¥3,960(税込)
商品番号:29-24-0444-813

【通常盤LP】Dry Cleaning / New Long Leg <4AD>
価格:¥2,750(税込)
商品番号:29-24-0460-813

Dry Cleaning / New Long Leg <4AD> 2090
価格:¥2,090(税込)
商品番号:29-24-0466-813

【CASSETTE】Dry Cleaning / New Long Leg <4AD>
価格:¥2,090(税込)
商品番号:29-24-0436-813

今話題になっている、スマホが我々の脳にどんな影響を及ぼしているのかを記した、精神科医のアンデシュ・ハンセンの著書『スマホ脳』を読んでみても、似たようなことを感じてしまいます。その中では、およそ700万年前から続く人類史の中で、スマホを使用してからの歴史というのは米粒にも満たないほんの僅かな時間であり、野生での生存のために長年かけて進化を果たしてきた人類の脳が、スマホを前に突然対応しきれるはずはなく、むしろその脳の働きを利用されることで、多くの人が中毒に陥ってしまっていることを強調しています。そして今や、集中力の低下やうつ病の急激な増加が世界各国で報告されており、さらに恐ろしいと感じたのが、基本的に同書で掲載されている調査報告は大体4年ほどの期間を経て発表されているそうなので、少なくとも4年前の話をしているということでした。

また、情報に溢れているだけでなく、驚いてしまうニュースが続いている昨今、我々はそれら一つ一つに追いつくことがやっとです。しかしそれぞれを意識的にみんなで考察していかないと進歩があるわけはなく、むしろその機会を今はますます奪われているような気がしています。「終わりよければすべてよし」「水に流す」。これらの日本人らしい言葉が粋な意味でのみ使われるようにしたいものです。

(③に続きます)