苦くも甘い交響曲

SHUN 新井 2021.12.15

ご機嫌いかがでしょうか、銀座店の新井です。





しつこくサムネ画像でスタイリングを入れて申し訳ございません。とにかく最近はブレザーを毎日色んなバリエーションで楽しんでます。365日365通りのブレザースタイル。こればっかりは洋服屋を20年やっていても飽きないから不思議なものですね。逆に他に着たい洋服が見つからないのが困りモノです。


脈略は無いのですが、新人スタッフにここ最近よく接客するダウンアウターの接客トークをどうすればって質問がありました。このブランドです。

イタリアの最大規模メンズウェア展示会のピッティに一応出張で行かせて頂いた時も、メイン会場のど真ん中にクチネリと肩を並べてこのブランドがドデカイブースで陣取ってたのが印象に残ってます。世界中のバイヤー達が樹液に群がるカブトムシみたいにこのブランドのサンプルを取っ替え引っ替え試着してました。ブースも入場制限をして、入るのも順番待ちってブランドは会場でもここだけでしたね。ビームスの名刺出したらびっくりするくらいすんなり入れましたが。。

そうなんです、海外の展示会を巡る時もウチの名刺は黄門様の印籠みたいに効果絶大。飛び込みでも無条件で好待遇されちゃうからビビりました。諸先輩の皆様の功績に感謝でしたね。

話を戻しますと、このブランドのアウターを世界中のバイヤー達がごぞってバイイングし、生地やらデザインやら縫製やらが一級品ですよってのは明らかな訳なのですが、その理由をちゃんと知ってるかどうかってのがセレクトショップスタッフの大切なとこなんじゃないかなぁーとオッサンは思う訳なんです。

という訳でちゃんと考察してみますね。


HERNO/フードダウン
カラー:ネイビー、オリーブ、ブラック
サイズ:44,46,48,50,52
価格:¥101200(税込)
商品番号:21-19-0515-557

トルソーに着せた時点でシルエット抜群。

ダウンコートでこのシルエットの垢抜け感は他のブランドじゃなかなか見た事ないです。しっかりと綺麗なスリムフィットバランスなのにちゃんと上品さというか知的なエレガントさと言いますか。


横から見ても変にボリュームが出過ぎてないので裾に向かってスッキリしてます。袖もやや前振りがついていてマシュマロみたいな野暮ったさは皆無。


ダウンパックの分量がまた絶妙ですよね。厚過ぎず薄過ぎずの感じ。これがまた街着としてドンズバ。アメリカダウンとかはアラスカ向けの最強防寒ですが、都市の電車移動等がメインの日常使いとしてはオーバースペックですからね。表生地のチョイスがまた素晴らしい。非常に軽く高見えの光沢具合。それで有りながらシルエットが綺麗に出る絶妙な生地のハリ感。企画経験者としてはダウンパックのボディやスリーブをこれだけ体型に沿う様に綺麗に曲線を描いて縫い上げるのが、普通のダウンアウター工場では実はそうそう出来ないんです。特にこの背中のウエストシェイプの形状なんかは何回サンプルでトライしても不可能って位の芸当なんですよね、実は。


この絶妙にフードが綺麗に立つ感じとか最高に上手い。フード自体もしっかりと綺麗に弧を描いて顔に沿う形状になってます。それらを両立させているのもじつは難しい。更には前立て等のパーツの角の処理も直線に縫って巻くのでは変な厚みが出て美観を損なうので、角丸に曲線縫いしてるのも非常に作り込まれた芸当の賜物。こういった端々の縫製処理は大量生産工場の縫製ではまず出来ない代物です。




何気に唸るのがこのフロント前立て等に配されるロゴ入りの純正ドットボタンやフロントのジップ。

まずドットボタンのクオリティがすごい。しっかり留まるのに着脱も変な力が入らずスムーズ。これだけでも絶対高い笑。安物では生地を痛める懸念でドットの付近に滑脱防止の為の芯補強をしないといけないんです。こうなると表生地に変な厚みとか重さが出ちゃうんです。そんな心配をさせない実は極上のドットボタンパーツは実は相当良い仕事してますね。


フロントのジップがまた憎い位にイイ。まず高級感を保ちながら適度な大きさでムシが噛み合わせに失敗をしてしまったりしないし、何より滑りが抜群。大体修理が多いブランドは先ずこのフロントジップでトラブルを起こしてしまうんですよね。

そしてドットもジップにも言えるのは相当に軽い。肩が凝るアウターって絶対おもいんですよね。その原因としてこれらの金具パーツの重量はかなり影響があります。素材は流石に明記されてないですが、資材パーツがこれだけ贅沢に良いものを使われてるのはあまり気付かないですが相当に拘り抜かれた代物だと思います。

そして肝心のダウン自体のお話をすると、グースダウンが使用されてますが、こういった著名アウターブランドはモンクレールしかりで高品質の羽毛をいち早く優先的に調達出来ていると推察されますよね。ダウンパックの技術も高いので、昔ダウンあるあるの羽毛や羽根の飛び出しが全くと言っていいほど無いです。羽毛の品質や洗浄作業もしっかりとされてるのか獣臭の臭い残りはこれまた全く無いです。昔のダウンは意外とそういった臭いが気になったりもしたんです、実は。ダウン品質が影響するのは重量にも然り。モンクレールもですが高級ダウンは着た時の軽さが全然違うのは体感で分かるはずです。先に述べた様にプラスで重さに影響する付属パーツや副資材をなるべく軽いものを使い、極限まで軽減化をしていながらも綺麗なシルエットを実現させている縫製技術は最先端イタリアブランドの賜物と言えると思います。


最後にデザイン。この企画の元ネタはミリタリーN3Bらしいですが、よくぞここまでディフォルメをして上品なスタイリングにしたものです。胸の両ポケットもよくある大きめだとバランスが悪くなるし、無いと凡庸な面構えになってしまうし。フラップも含めて小さめのサイズ感が非常に上品な雰囲気に昇華してると思います。ブランドの顔見たいな要素をしっかり待ち合わせながらも、ノーブルな雰囲気で着る人をほぼ選ばないってとこも特筆ですよね。大概の人が着ても先ず似合う。そして年齢も余り選ばない。そして着ると上品なスタイリングに早変わり。このバランス感覚はこのブランドならではとも言えますね。

このコートが出た時はもう10年以上前ですが、全くデザイン変更は無く変わらないままずっと毎年好セールスをおさめて販売されてるんですから、本当に大した物ですよね。ずっと売れ続ける逸品を自でいっちゃってる数少ない名作アウターと言って過言ではないと。


高級ブランドアウターなので当たり前と言えば当たり前の事を講釈垂れてしまいましたが、こういった名作の解説をちゃんとしてるショップサイトはググってみても先ず無かったので、これはこれで意味があるのではと。ブランドからリリースされた紹介文をコピペした様な内容のページは幾らでも有りましたけど。

こういった文面を読む事をきっかけで、洋服屋なのにまだまだ格好だけのサラリーマンショップスタッフが本物の洋服屋に成長していけると良いですよね。

若者よ、服の美学は細部に宿る。



表題は97年発表のバンドVによる90年代ブリティッシュロックを代表する大名曲。序盤から奏でられるストリングスフレーズは同時のヨーロッパファッションコレクションの多くのブランドでショーBGMにも使用された正に一世を風靡させたと言える傑作でした。あれだけ大ヒットしたのに著作権のいざこざで彼らが得た収入は1000ドルだけだったという悲劇には後日談で驚かされました。なので公式な作詞作曲はサンプリングの元の音源のあのイギリス中流階級を代表する転がる石の様な大御所バンドのコンビとなってしまってます。

私も完璧に当時10代の青春の私的ノスタルジック
も有りますが、90年代ブリティッシュロックの最高峰としてのナンバーワンに挙げられる一曲と言えばこの曲で間違いないですね。そしてこれが終焉を迎えつつあった空前のブリットポップブームの最後に咲いた一輪の花でもあったとも思います。


著作権のいざこざを知らなかった若い頃は、このバンドが先代の大御所バンドをリスペクトしての曲の作成依頼をしたとかアレンジをしたとかの世代継承の美談曲と勝手に勘違いしてましたね。真実は皮肉なモノでしたが。

長々と講釈たれたモノの語りも、若者にとっては老兵の押し付けがましいお節介にならない程度に伝えていきたいですね。


それにしても曲の始まりを告げるカノンの様に壮大で華麗なストリングスは文句無しに美しくも気分を最高に高揚させてくれます。この気品さえも感じる美しさはヘルノの気品あるアウターとリンクしちゃうんですよね。



それでは銀座でお会いしましょう。


新井



投稿は毎週土曜日を予定しています。今回は日曜にずれ込んで申し訳ございませんでした。