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13
Masahiro Motoki
Actor
#The Long Excuse
Sept. 16. 2016
about
Sept. 16. 2016 / #The Long Excuse

13 Masahiro Motoki Actor

&Kojiro Nagumo (BEAMS Creative Director) Photography : Takeshi Hanzawa
Main Visual Photographer : Yoshihiko Ueda
Stylist : Toshio Takeda
Hair & Make -up : Tomita Sato
Copy Writer : Masakazu Taniyama
Text : Yasuhiro Takeishi (City Writes)
Art Director : Tomohito Ushiro
10月14日(金)より公開の映画『永い言い訳』の主演を務める、日本映画界を代表する俳優のひとり本木雅弘さん。本木さんが演じる主人公「幸夫」の衣装協力を手がけたのはビームス クリエイティブディレクターの南雲浩二郎。今回は二人の出会いからファッションに向き合う姿勢、劇中での衣装の持つ効果など20年来の親交がある両名だからこそ語ることができる特別対談をお届けします。(ビームスの限定店舗で配布されるリーフレット「BEAMS / "The Long Excuse"」より転載)

人それぞれで違う立ち位置や距離感によって表現するものだから、ファッションは面白いんですね。

出会い

Masahiro Motoki (以下、M.M) :
南雲さんと最初にお会いしたのは、80年代中頃かな。当時はDCブランドを着飽きて、何を着るか迷っていたんですが、スタイリストの方がよくインターナショナルギャラリー ビームスで服を借りてこられていたので、自分でも顔を出すようになった。そこで店員をされていたのが南雲さんで、ちょっとコワモテというか、威圧感のある人だなと感じました。「お前ごときが着る服は売ってない」みたいな(笑)。
Kojiro Nagumo (以下、K.N) :
当時は僕も20代でしたからね(笑)。
M.M
でも、服を自分のものにしていて、すごくムードがあるなと思ったのを覚えています。
K.N
よく接客するようになったのは、本木さんがご結婚する前後だったと思いますよ。
M.M
僕が結婚したのは‘95年ですから、もう20年くらい前になりますね。
K.N
その頃から、コーディネイトの相談なども受けるようになったんじゃないかな。たとえば結婚式後の食事会で着る服を「来週なんですけど、全身コーディネイトしてください」なんて、急に頼みにきたこともあったかと(笑)。
M.M
そうそう。そうやって徐々に味をしめていき、駆け込み寺みたいになっていったと(笑)。そもそも自分は、服に関して特にセンスがあるとは思っていないので、南雲さんにはいろいろ勉強させてもらいました。コーディネイトのテクニックだけではなく、その服のルーツや背景なども物語って教えていただき、それがその服を選ぶ理由付けになった。そしてそうした服の持つ意味合いが、自分のなかでは武器となった面もあります。服はけっして見た目だけのものではなく、そういう“作用”もあると思うんです。
K.N
たしかにそうですね。本木さんは「○○がほしい」というのではなく、要望があっても抽象的でいつもニュートラルな状態で来店されるので、こちらである程度ストーリーを作って提案してきましたよね。僕らはいわば“スーパーマーケット”なので、材料はいろいろありますから、そのときの本木さんに合うように料理して出す、みたいな。そんなストーリーを含めて本木さんは吸収してくれるし、こちらとしてもそれが面白かったんです。

BRILLA PER IL GUSTO Jacket ¥ 55,000 + Tax / TAGLIATORE Gilet ¥ 32,000 + Tax

GIANNETTO Shir t ¥25,000 + Tax / EREDI CHIARINI Tie ¥14,000 + Tax

GERMANO Pants ¥29,000 + Tax / ANDREA DAMICO Bracelet ¥13,000 + Tax

JALAN SRIWIJAYA Shoes ¥32,000 + Tax

映画『永い言い訳』

M.M
今回の『永い言い訳』の衣装に関しても、そんな南雲さんだからこそ、僕の抽象的な注文を理解してもらえたんだと思いますよ。そもそも映画の衣装は専門の衣装屋さんから借りることも多いんですが、新しくてリアルな服を揃えるのは正直なかなか難しいんです。ならば、また駆け込まないと、と(笑)。でも、今回は全面的な衣装協力というより、南雲さんを含めたビームスさんの豊かな能力を貸してください、という思いでしたね。
K.N
まず僕が本木さんのモヤモヤしたイメージを訊いて、スタイリストの小林身和子さんに「こんなこと言ってますよ」と、いわば通訳する感じでしたよね。言語化し、ときには可視化して伝え合い、3人で決めた衣装を西川美和監督に提案するという流れでした。
M.M
男の服って、ちょっとしたさじ加減で印象が変わるじゃないですか。たとえばTシャツのネックのつまり具合で見え方のニュアンスが微妙に違ったり、ジャケットの仕立てが構築的かアンコンかでも見える情景が変わってくる。さらに映画で難しいのは、衣装が主張してしまってはいけないということ。あくまで衣装はその場面や人物像を明確にし、押し上げるものでなければなりません。そのさじ加減はとても難しいですが、南雲さんはそこが抜群に上手いのでお願いしたんです。今回のようなかたちで衣装を決めるのは初めてでしたけどね。
K.N
スタイリストさんがいらっしゃるし、最初はどんなかたちで関わるべきかを考えましたよ。そもそも僕は映像の世界の人間ではないなので、衣装が映像のなかで意図した印象になるか、いまいち予想がつかない。そのシーンが引きか寄りか、ロケかスタジオかでも服のテクスチャーの出方が変わるし、映像の色そのものによっても印象は変わるでしょう。そういったことは逆にプロの小林さんに訊いて、“通訳”してもらいましたね。そういう3人のやり取りは初めてのことで、とても面白かったです。
M.M
実際に見るよりも、映像になると質感が落ちる場合もあるので、計算するのはなかなか困難。でも、そのなかでも南雲さんにはこだわっていただいた。主人公「幸夫」は、売れない時代を経て成り上がったタレント小説家という設定で、TVのクイズ番組に出演したりしています。前半は服に派手さが残っていて、TVのなかではベルベットのジャケットを着て、色味のあるスカーフをしていたり。あれは南雲さんの私物でしたよね。
K.N
そうそう。ちゃんと私物を貸したから、エンドロールに個人名がクレジットされたんですよね(笑)。それはさておき、衣装は本木さんが役に入っていける道具でなければと思ったんです。当たり前のように着ていないと、本当っぽく見えないですから。美味しくないものを食べながら美味しく食べる演技をするより、ちゃんと美味しいものを出してあげたほうがいいに決まってるんです。だから映らないかもしれないけど、服装がリアルにできあがっていることが大切だと感じました。ある意味、本木さんが服のことは考えずに演じられるコーディネイトでなければと。僕に求められているのは、そういうことではないかと思ったんです。

BELVEST Coat ¥250,000 + Tax / BEAMS F Suit ¥113, 000 + Tax

JOHN SMEDLEY Knit ¥ 32,000 + Tax

PARABOOT Shoes ¥65,000 + Tax

衣装という武器

M.M
当然制約はありますが、そのなかでも自分が作りたい佇まいに近づけると、自分にとって心強い武器になるんです。そういった意味では、南雲さんにコーディネイトしていただいた衣装は非常に助かるものでした。なかでも物語の後半、捻れた自意識をもった主人公が友人や子供たちとの交流を経て、父親的な温かさが芽生えた人間となる。そんなニュアンスを醸し出すのに、上質なニットカーディガンがひと役買ってくれた。あれはなんの素材でしたか?
K.N
アンゴラですね。ショールカラーのデザインもやさしい印象を醸していたと思います。
M.M
良質な服はやっぱり光の吸い方が違うというか、映像になっても柔らかく繊細に見えるんですよね。それが自分の求めていた、人間的な柔らかさの表現に繋がったと思う。いずれにしろ、ビームスの懐の深さ、豊かさがあったからこそ、今回のような取り組みが実現できたと思います。ビームスにはさまざまなジャンルの服が揃っており、いわば“日常”がある。そこが重要だったのではないかと思うんです。
K.N
リアリティがある、ということですよね。つまり、衣装さんが作ったものではなく、誰もが買える服であり、実際に同じコーディネイトができる。しかも映画の設定もいまで、服のバランスもいまなのがリアリティに繋がったのでしょう。それと、やはりこの映画は“メンタル”の物語だと思うんです。本木さんは髪を伸ばしたり痩せたりして、主人公のメンタルがどう変わっていくかを表現していますが、服もそこに呼応しなければと感じたんです。

STILELATINO Jacket ¥ 235,000 + Tax / ZANONE Knit ¥ 33,000 + Tax

THREE DOTS T-Shir t ¥11,000 + Tax / BERWICH Pants ¥ 31,000 + Tax / ZANEL LATO Bag ¥128,000 + Tax

PARABOOT Shoes ¥70,000 + Tax

ファッション

M.M
それは現実でも言えることですね。職業柄というのもあるかもしれませんが、僕はファッションを逃れられない自己表現のひとつと思っています。たとえば声も匂いも届かない所で、ふとした瞬間に姿を見られたとき、どんなデザインでどんな質感の服を着ているかが、どんな人物像を目指しているかという唯一のアピールになってしまう。そこからはけっして逃げられないんです。人間、裸では生きていけませんからね。南雲さんはどう思われますか?
K.N
なにとどれくらいの距離があるかによって、その人のファッションは決まると、僕は思います。たとえば現代的に服を着こなす人というのは、いつも周囲の動きに注意を払い、何が流行っているか、そして社会では何が起こっているのかを知った上で、それらとどの程度の距離や時間を保つのか、というこを意識しています。ファッションは、つねになにかと呼応しています。それは音楽や映画だったり、社会的なムーブメントだったりする。それらと繋がって変化していくのが、ファッションの醍醐味でもあると思うんです。
M.M
人それぞれで違う立ち位置や距離感によって表現するものだから、ファッションは面白いんですね。そのものだけでは存在し得ないというか。そういった意味では、この『永い言い訳』という映画のテーマにも通じると思います。他者あっての自分。他者と自分の間に生まれ、育んでいくものこそが自己であると。そういった人と人との距離感が育むという点は、ファッションも同じなのではないでしょうか。
K.N
僕もそう思います。その距離は変わったり、変わらなかったりするし、その変化にファッションは呼応していく。人生というと大袈裟かもしれませんが、それは生きていくこととシンクロしているといえるでしょう。だからこそファッションは自己表現たり得るし、なによりも楽しいんだと思いますね。
Masahiro Motoki
Masahiro Motoki
(Actor)

1965年生。82年「シブがき隊」のメンバーとしてデビュー。解散後、本格的に俳優活動を開始。代表作に映画『シコふんじゃった。』『日本のいちばん長い日』NHK大河ドラマ『徳川慶喜』など。最新作『永い言い訳』は米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『おくりびと』以来7年ぶり待望の映画主演作となる。

Kojiro Nagumo
Kojiro Nagumo
(BEAMS Creative Director)

「ビームス創造研究所」クリエイティブディレクター。1964年生まれ。「インターナショナルギャラリー ビームス」販売スタッフ、同店店長、全店のVMD統括などを経て、2010年より現職。BEAMS店舗の内装ディレクションを行いながら、マンションのモデルルームのインテリアコーディネートなど社外のクライアントワークにも従事している。

映画『永い言い訳』

10月14日(金)ロードショー!妻が死んで、一滴も涙を流せない男の、ラブストーリー。原作・脚本・監督:西川美和 出演:本木雅弘、竹原ピストル、藤田健心、白鳥玉季、堀内敬子、池松壮亮、黒木華、山田真歩、深津絵里。

About

BEAMSにまつわるモノ・ヒト・コトをあらゆる目線から切り取り、
ヒトとヒトとのお話から”今気になるアレやコレ”を
紐解いていく連載企画 【TALK】。

洋服のデザイナーからバイヤー、フォトグラファーやモデルなどなど。
様々な職種のプロフェッショナルから
”今気になるアレやコレ”を伺います。

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