Oct. 30. 2019 / #FASHION #MUSIC
30
Hideaki Shikama
Children of the Discordance Designer
& Yosuke Sekine (International Gallery BEAMS Buyer)
Photography:80percent_photos Text:Takuro Kawase
国内デザイナーの海外進出を支援する、2017東京ファッションアワードを受賞した<Children of the Discordance(チルドレン オブ ザ ディスコーダンス)>。3月に行われた2019秋冬のランウェイショーが、BEAMSオフィスのテラスで行われたことも大きな話題となりました。<International Gallery BEAMS>での取り扱いが8シーズン目を迎え、国内外で高い評価を得るようになった現在。デザイナーの志鎌英明氏を迎え、バイヤーの関根陽介とともにこれまでのBEAMSとの取り組みとクリエイションについて語っていただきました。
苦境を乗り越え、4年前にクリエイションが覚醒
Yosuke Sekine(以下Y.S):
<Children of the Discordance>は、どのような経緯で始まったのでしょう?
Hideaki Shikama(以下H.S):
コマーシャルな服ではなく、自分たちが本当に好きな服を作ろうというのが出発点となり、2011春夏シーズンからスタートしました。当時は自分以外にも2人のデザイナーがいて、3人でデザインをしていました。週末になれば、古着の倉庫へ買い付けに出かけたり、アトリエに集まってTシャツの版を作ったり...。そうこうしているうちに、他の2人がデザインを継続していくのが難しい経済状況になり、残った自分1人だけでブランドを継続することになりました。
Y.S:
2011年の春夏シーズンと言えば、東日本大震災の直後でしたね。
H.S:
ブランドを始めるタイミングとしては本当に難しい時期でした。取引先は3軒しか決まらず、厳しい状況からのスタートでした。そうした状況がしばらく続いていたのですが、2年前に“ちゃんと服と向き合いたい”というシフトチェンジが自分の中に起こりました。その変化が服にも表れたのか、お客さんからの反応が変わってくるようになりました。<International Gallery BEAMS>で取り扱っていただけるようになったのも、ちょうどその頃でした。
Y.S:
初めて志鎌さんの服を見たのは、2015年春夏のコレクションでした。音楽好きの後輩からの紹介で、事前知識もないまま展示会に伺いました。当時、<International Gallery BEAMS>に求められていた服は、ミニマルで落ち着いたデザインが主流でした。その反動として、もっとエッジがあり、ユースカルチャーを背景にしたブランドを探していたのです。そんなタイミングで出会ったのが、<Children of the Discordance>でした。ユースカルチャーを背景に、ヴィンテージを資材としたデザインはもちろん、高いスキルにも強く惹かれました。
H.S:
<International Gallery BEAMS>で取り扱っていただいた最初のアイテムは、パッチワークのレザーパンツの別注でしたね。20代だけではなく40代でも着やすいサイズ感という依頼で、新しいパターンを引きました。2回目はヴィンテージのリーバイス、3回目はヴィンテージのトレンチコートを資材にしました。いろいろな別注をいただいて、クオリティも着実にレベルアップしていったことを自分自身でも実感できました。回数を重ねるほどブランドの認知も高まり、幅広い層から支持されるようになったことは本当に感謝しています。
ランウェイで注目されたバンダナと音楽について
Y.S:
2019秋冬コレクションは古着を通過してきたファッション好きにはたまらない、ヴィンテージのバンダナが主役になっていますね。
H.S:
今季はなぜバンダナなの?という質問をよく受けるのですが、僕にとってのバンダナのサンプリングソースは、いわゆるアメカジではなくヒップホップやハードコアから来ています。自分の作っている服を、直接的にヒップホップやストリートと結びつけて欲しくはないのですが、2pacやNotorious BIGの着ていたシャツがサンプリングネタになっていることもあったりします。<International Gallery BEAMS>の別注は、数ある色の中でも特に希少な白いバンダナという依頼でした。
Y.S:
志鎌さんにはいつもわがままな別注をお願いしていますね(笑)。1着で26枚ものヴィンテージバンダナも使っているアイテムもあります。さて、2019秋冬コレクションはBEAMSのオフィスでランウェイショーを行いました。ショーの音楽があの空間にマッチしていたことも印象的でした。
H.S:
小さい頃からヒップホップが好きで、今回も僕の地元である横浜のクルーに音楽を作ってもらいました。海外のセールスも徐々に伸びてきた中で海外バイヤーからは、“いかにも東コレというショーをやっちゃダメ。エレガントに淡々とやりなさい”と念押しされました。ですから、やかましい感じではなく、淡々としながらも凛とした音楽を意識しました。東京のド真ん中なのに静けさを感じさせる、異空間のような場所をランウェイにできたことは貴重な体験になりました。
Y.S:
志鎌さんの友人が弊社にいたこともあり、結果的にいろいろな障壁を乗り越えることができましたね。結果的にアットホームな雰囲気でショーを作り上げることができ、多くの社内スタッフから、“またやりましょう!”と賛同してもらえたことは、自分にとっても大きな収穫でした。国内での評価はもちろんですが、海外のセールスが好調というのも素晴らしいですね。
H.S:
他のデザイナーが絶対に作れないもの、自分だけにしかない強さを常に意識してデザインしています。そうでなければ、海外では絶対にバイイングしてもらえないと常に考えて向き合っています。
Y.S:
志鎌さんが販売員をやっていた経験が影響しているのかも知れませんが、単に奇抜なデザインやテクニックを見せつける服ではなく、“実際に欲しい、着たい”と思わせるルックがたくさんありました。
H.S:
数を稼ぐだけのルックは1体も作らないということをチームの共通ルールみたいにしていまして。今回も2年前からずっとお願いしているTEPPEIさんにスタイリングを依頼しました。
Y.S:
スタイリングの感覚が僕の世代とはちょっと違うし、影響を受けたカルチャーも世代的に少しずれているのですが、共感できる部分と刺激を受ける部分の両方がありました。だからこそ、色んな着こなし方ができるし、着る人の年齢を限定しないのでしょうね。それから、“外に向かう集団のパワーから、内に向かう個の美学へ”、今ちょうど気分の変わり目という気がしているのです。こうした変化においても、<Children of the Discordance>の服を一点取り入れるだけで、今の着こなしになるのが強みですね。
最新コレクションで、ここを見て欲しいというところは?
H.S:
自分でもニットは得意だと思っているので、関根さんにニットを買い付けていただいたことは個人的に嬉しかったですね。ヴィンテージを資材にすると、どうしてもコットン素材が主体になり、コーディネートが野暮ったく見えてしまいがちです。そこで、ファクトリーメイドのニットにヴィンテージの生地を組み合わせて、自分なりにアップサイクルしてみました。
Y.S:
どうしてもグラフィックに目が行ってしまいがちですし、もちろんそれが志鎌さんの強みでもあるのですが、やはり今季はディテールまで作り込まれたニットをおすすめしたいですね。オーダー数も増やし、色違いでバイイングさせていただきました。
H.S:
10代の頃、<COMME des GARÇONS>のニットを愛用していました。自分が洋服を作るようになって気が付いたのですが、すごくシンプルに見えて、実は色んなところに
テクニックが盛り込まれているのです。自分もそんな風にニットをデザインできたらいいなと。僕は生産環境にも恵まれていて、ずっと同じニット工場さんとやり取りさせてもらっています。物作りにおいては、工賃のディスカウントを求めないのが自分のポリシー。それは生産現場の皆さんに気持ち良く仕事をしてもらいたいからです。商品の金額が上がってしまうのですが、結果として服が持つオーラが違ってくるからです。ブラ ンドに関わるすべての人に、感謝の念を忘れないことが大事だと考えています。
Y.S:
今回で8シーズン目の取り扱いになるのですが、単に洋服を売る側と買う側という関係性に留まらず、お互いが楽しみながら付き合うことができていますね。志鎌さんは<Insonnia Projects(インソニアプロジェクツ)>という別レーベルも並行して行っていて、昨年はNIRVANAにフォーカスしたイベントを一緒に行いましたね。たくさんのお客さんがいらして、250枚のTシャツがあっという間に完売してしまいました。
H.S:
前回はNIRVANAのライセンスを取得して、限りなく当時のヴィンテージに近いプリントや加工を施しました。自分はリアルタイムで通っていない世代なのですが、周囲にNIRVANA好きの先輩が多く、たくさんの資料を手に入れて調べました。単なるビジネス上の繋がりを超えたところで、お互いに刺激しながらお付き合いできていることが、自分にとっても大きな励みになっています。